エンジェル・ハート 6
アフリカの大地のように、刻々と繰り広げられる生存競争に終わりはない。
だからこそ、スミスは神様がいると言い続けていた。
救いがない今に争いなど生まれない。
諦めたらすべてが、そこで終わってしまう。
見返りを求めない存在こそが神だ。
濡れた身体が凍えるように寒い。
「愛理」
時に優しさは人を傷つける。
「ごめんよ、愛理」
僕は独りだ、ずっと――
雨に打たれながら、僕はそっと、目を閉じた。
苦しむ僕に、あの人は意味を持たせてくれたのかもしれない。
黄金色にも似た輝きを放ち、眩い雨が降る、
死者の鎮魂を願う、ともし火が、眩い光となり降るう空に、煉獄の大罪が慈しみによって消えていく。
愛しさのすべて、
人は神にはなれない。
夢の続き、こっちにおいでよ。
「エッジ?」
幻想的な空に煉獄のともし火が灯り続ける。
ひとは罪を犯すものだ。
愛理を導いたのは、あの人だね。
幻想的な空は僕たちに話しかけ続ける。
もう一度、歩きだすことを祈って。
濡れた身体は愛理が拭いてくれた。
僕は毛づくろいをしながら、愛理を見た。
まだ、起きだすには早い時間だ。
寝息を立て始めてた愛理の横顔が、どこか、あどけなく見える。
*
けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音は愛理の慌しい日常を作りだしていく。
慌て飛び出していった愛理の背中を僕は見送った。
部屋に残された僕は人に戻る。
窓を開ける一瞬だけが人だ。
二階から抜け出た僕が向かうところ、どこだっていい訳じゃない。
広い交差点、片側三車線の大道路に出るなり辺りを窺った。
「あの日のできごとを風化させないように」、ダンボールで書かれた慰霊碑代わりの言葉が目についた。
この場所は僕が死んだところ。この文字は誰が書いたのだろう。
慰霊碑代わりのダンボール箱の切れ端に、たくさんの落書きがある。
誰も僕たちの死を悲しんでいないのがよく分かる落書きだ。
交差点の角、この街路樹の立ち木が最期に見た街並みだった。
立ち木の傍で僕は座り込んだ。
浩太が倒れた場所は、あそこ。僕が倒れた場所はそこ。
そして、押し出された、あいつが倒れた場所は、あっちだ。