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 迷宮都市 その5

 ゴーレムの前にライピョンさんを模したエレキゴーレム『雷神(ライジーン)』が降臨した。
 フォルム自体はライピョンさんと酷似しているが、顔面がロボット風の双眸をしており、そのままロボットアニメにも出て来そうな雰囲気だ。
 エミリーが原型を作り、明日香が魔法で強化しているので、エミリーはライピョンさんと二人三脚で操作にほぼ専念し、明日香はほぼ魔力提供にとどまる感じだ。

 そのため、明日香は俺たち全体を魔法で防御するだけでなく、その他の作業も時々行う余裕があるようだ。
 迷宮の奥からリビングアーマーが時々追加されてくるため、じいちゃんの攻撃だけではすり抜けてきそうになるのだが、それを明日香が強烈な魔力弾で叩き壊している。
 実は俺たち『足手まとい』が居なかったら、案外明日香がもっと無双していたのではないかと懸念を感じているのだ。
 とはいえ、先頭に出たら明日香を異常に心配させるので、うかつに前に出られないし…。頑張って魔法を勉強してみようか…。

 雷神とゴーレムはほぼ互角のつば競り合いを続けている。
 スピードでは雷神が勝り、攻撃力・防御力ではゴーレムが優る…と明日香がナビを見ながら解説してくれる。

 「雷神ゴーガン!!」
 雷神が巨大な弓を取り出し、次々とゴメラ達に向かって矢を放つ。
 光でできた矢はゴーレムの体に刺さるのだが、まもなくと中から金属が盛り上がってきて傷がふさがってしまう。

 「あのゴーレム、ただでさえ体表が頑丈なうえに、全体の耐久力や回復力が桁違いだわ!」
 雷神とゴーレムの戦闘をナビで見ながら明日香が叫ぶ。
 「確かに!このままじゃあ、雷神のエネルギーが先にきれてしまう!明日香!どうすればいい?」
 「そうね…。雷神用の強力な武器を創造(クリエイト)するしかないわね!」
 エミリーに問われて明日香が決断する。
 「ライピョンさんとエミリーがイメージしやすい武器を強くイメージして!私がそれにエネルギーを加えるから!」
 「明日香、わかった!やってみる!」
 エミリーは叫ぶと雷神≒ライピョンと意識をリンクさせた。



 「牛によく似たお前さん、蚩尤(しゆう)だろ?えらい強い邪神だったということで展開で画像を見たことがあるぜ♪」
 「…ほお、我を知っていたか。だが、貴様のような強大な天界の武将は聞いたことがないのだが…。」
 「俺は哪吒子だ。哪吒太子は俺の兄にあたる。ただ、俺はまだ若手だからね。名前はあまり知られていないのさ。まあ、別に名前は有名にならなくても構わない。強い奴とやりあえればいいからね♪」
 敵のボス…キメラ魔神とでも呼ぶべき存在の一部である蚩尤と哪吒子はどうやら同じ世界の出身らしい。

 「そうか、あの哪吒太子の妹か。それでは、少しいいことを教えておいてやろう。もし、我らを倒せたときに少しは役に立つだろう。
 我ら七柱は暗黒邪神ニビルがいろいろなところから引き抜かれて奴の配下になったものばかりだ。
 部下が奴の本当の子飼いでないせいか、手下をただの駒としてしか見ていないようであるし、やたら猜疑心が強く、策略を好む奴だ。
 おそらくお前さんと真正面からやりあうのを避けて、なんとか罠にかけようとするのではないかと思う。」
 「なるほど、それはいい情報を聞いた。では、そのお礼に全力で、苦しまずに済むように止めを刺させてもらうぜ♪」
 哪吒子が再び戦闘態勢に入る。

 「先ほどの攻撃はかなり本気だったのだが、全然ダメージがいっていないようだな…。こちらも全ての力を総動員して、死力を尽くさせてもらう!!」
 キメラ魔神は叫ぶと、魔導師ガイアスの口から呪文が唱えられ、魔神の姿が七体新たに現れ、本体を含め、それらが一斉に哪吒子に襲い掛かる。

 「へえ、普通なら見分けられないくらいよくできた分身だね。だが、俺の『真実を見る眼』をもってすれば、本物は必ず見通せる!」
 哪吒子は偽物をすり抜けようとしたが、偽魔神たちの振るうたくさんの武器に阻まれて素早く後ろへとびすさる。

 「驚いたな…。全部偽物とは言え、使う武器は本物かい…。しかも偽物の耐久力はともかく、動き自体は本物とほぼそん色がないとはね。」
 哪吒子が武器を構え直して、キメラ魔神たちを睨みつける。

 「その通り。今のお前さん相手に一対一では分が悪いが、『武器王』ギルガメシュの数々の武器と蚩尤の並外れた戦闘力、ガイアスの魔力を合わせることでお前さんを倒しうる力を我らは得た。
 貴様らを倒し、暗黒魔神ニビルも倒してみせる!!」
 八体のキメラ魔神は再び一斉に動くと哪吒子に殺到した。


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 「ザップマンビーーーム!!ザップマンビーーム!ビームったら、ビーーーム!!!」
 「はい、回復魔法です♪」
 じいちゃんがビームでどんどんリビングアーマーを倒すものの、迷宮の奥から次から次へと後続のリビングアーマーが出てきて、全く数が減らない。
 慣れたおかげでアリーナ王女はじいちゃんが限界に達するすぐ前に気力回復魔法をかけて、再びじいちゃんは光線でリビングアーマーの撃破を再開する…しばらくそんな展開が続いた。

 「しんどい!!めっちゃしんどい!!じじいをどんだけ働かす気なんじゃ?!!この迷宮は!!!」
 じいちゃんがひいひい言いながらさらに光線を出し続ける。

 「アリーナ王女、私にも回復魔法をお願いします!!」
 「了解です。『気力・体力・その他回復魔法』!!」
 シャリーからの要請にアリーナ王女がシャリーにも回復魔法をかける。
 「助かります!!もうひと頑張りしてきます!!」
 傷がふさがり、体力と気力も回復したシャリーが再び気合を込めて剣を振るいだす。

 「もういやじゃ!!もふもふ成分が切れた!!やりたくないい!!」
 光線はなんとか出しながらもじいちゃんがわがままを言いだした。

 じいちゃんに何か言おうとしたアリーナ王女はぐはっと言いながら口から大量の血を吐いた。
 「わあああああ!!!アリーナちゃん、大丈夫か?!!!!!!」

 しかし、アリーナはすぐに自らに呪文を唱えると、血が止まり、青かった顔色が元に戻った。
 「失礼!呪文の唱え過ぎで、体への負担が大きくなりすぎました。ですが、もう大丈夫です。」
 アリーナは血まみれになった顔を拭いながらにっこりと笑う。

 「お兄ちゃん!アリーナ王女に極大回復ポーションを飲ませてあげて!」
 俺は明日香の指示に従い、持っていた明日香特製の『極大回復ポーション』をアリーナ王女に飲んでもらう。
 え?なんで本人が自分で持って飲まないのかですか?
 いえ、本人にも持ってもらっているのですが、俺がやることがあまりないので、せめて『ポーション要員』になっているわけで…。
 自分の非力さが憎い!!
 幸か不幸か、みんな親切で優しいので誰一人僕を役立たずと言わないし、責めたりしないのだけれど、時々みんなの優しさが逆につらくなります、はい。
 もちろん、じいちゃんはそれ以上我がままを言わずに泣きながら光線を出し続けた。



 「「「雷神剣!!」」」
 ライピョンさんとエミリー、明日香がシンクロし、『雷神(ライジーン)の合わせた両手から光でできた剣が長々と伸びる。
 「ライピョン!エネルギー消費が激しくてこの武器は長くは保たない!速攻で決めてくれ!!」
 「わかった!行くぞ!!」
 エミリーの叫びにライピョンさんは呼応し、雷神は剣を構えてゴーレムに突っこんでいく。

 「雷神爆雷剣!!」
 雷神が輝くエネルギー剣を上段から叩きつけ、ゴーレムがそれを両手で受け止める。
 バチバチバチバチ!!!
 ゴーレムは両手でしばし、エネルギー剣を受け止めていたが、エミリーとライピョンさんがさらに気合を込めるとエネルギー剣はその輝きを大きく増した。
 ブシュウウウ!!
 剣を受けていたゴーレムの手が少しずつ高熱で溶け出している!!

 「でりゃああ!!!!」
 ライピョンさんがさらに叫ぶと、剣はゴーレムの頭頂から股下までバッサリ切りぬいた。
 切り裂かれたゴーレムは次第に形が崩れていき、残骸を明日香から伸びた影が呑み込んでいった。
 …今の影は明日香が言っていたレインボードラゴンだね。



 「く、ゴーレムが?!!」
 たくさんの分身が一斉攻撃に出るものの、哪吒子の堅い守りに阻まれて、なかなか大きなダメージを与えられないでいたキメラ魔神はゴーレムが崩れ去るのを見て、一瞬ひるんだ。

 「おっさんたち!甘いぜ!!」
 哪吒子が八本の腕のうち六本を引っ込めると、残った二本の剣が大きく輝いた。
 「斬妖刀神速剣!!」
 哪吒子が目にもとまらぬ速さで動くのにキメラ魔神と分身は何とか対応しようとしたが、一歩及ばず、哪吒子は本体の眼前に到達していた。
 一瞬後、双方がすれ違った後、哪吒子の左頬から血が流れ、キメラ魔神の胴体が斜めにずり落ちた。

 「…やはり、届かなかったか…。だが、ここまで戦えて、悔いなし…。」
 キメラ魔神は哪吒子に斬られるとその体が砂のように崩れていった。


 「…ええと、明日香?あの魔神はレインボードラゴンに食べさせなくていいのか?」
 「……ええと、エネルギーを使い果たしたカスみたいなものだから、食べさせても意味がないのよね…。誤算だわ…。」
 キメラ魔神が消えゆくさまを俺たちは呆然と見やるほかなかった。



 「ふははははははは!!!そうか!今度は奴らはゴーレムの力は取り込めたものの、ガイストたちを取り込むのに失敗したわけだな!!!あれ以上強化されていては、さすがのわしもてこずったろうからな。念入りに防御システムの罠を張り巡らせておいてやろう!」
 暗黒邪神ニビルは部下の報告を聞きながら、にやりと笑った。



 「……てなことになっていると思うのよ。ゴーレムが過去迷宮内に集められていた力を予想以上に取り込んでおいてくれたから、結果的には予定していたのとほぼ変わらないくらいの力を取り込めたし、今回取り込んだプログラムも、向こうの古代都市のシステムと同じプログラムを使っているはずだから、向こうに着いてから古代都市の防衛システムの解析には予定よりも時間がかからないと思うの。
 こちらが失敗したと思って相手が油断している分、勝率が上がると思うわ。
 あとはどうやって狐と狸の化かし合いに勝つかよね♪」
 「…明日香さま、ずい分自信がおありのようですね。」
 「ふふふ、自分が強いとか、頭がいいと思いあがっている相手は相手のプライドを刺激してあげると、意外と簡単に引っかかるのよ。
 哪吒子ちゃんとか、エミリーみたいに自分を冷静に見れる相手の方が手ごわいわよ。
 さあ、バハムート。あなたの本当のスゴサは『力ではない』ことを力の信奉者の邪神に存分に見せてあげましょうね♪」
 レインボードラゴンは明日香が笑うのを見て、小さくため息をついた。

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