03
僕が紅茶に口をつけたのを見計らって、ヴァージルは「さて」と話を切り出した。
「復讐代行の件ですが」
知らず、背筋がのびる。
僕だって、別に遊びや冗談でヴァージルを招き入れたわけではない。一応常識が通用する相手であることは判明したが、そうでなければただの不審者だ。言ってることからして物騒だし、下手をすれば殺されることだってありうる。復讐代行などという職(のようなもの)が本当かどうかは分からないが、どちらにしろ武器を持っている可能性は捨てきれないのだから。
しかし、それでも構わないと──金だけとられて復讐は果たされないという結末であっても、最悪自分の命だけが奪われるという結果であっても、まったくもって構わないと思うだけの相手が、僕にはいた。
「グレッグ・ブリュー」
僕が告げた名を、ヴァージルが繰り返す。
「聞き覚えがありますね。九人も殺した殺人鬼で、証拠は十分だったが精神異常と認められて今は病院に入ってるんでしたっけ」
肺か、そうでなければ胃が焼けただれそうだった。
名を述べただけでも、じりじりと足の銃創がうずく。
太い血管を避け、骨にも当たらないよう細心の注意でもって僕を殺さなかった男だ。焼けるような痛みも、燃えるような恨みも、全てはあのケダモノによって与えられた。
精神異常? 笑えない冗談だ。
確かにやつの精神は異常だが、それはこの世に存在してはいけない異常だ。精神病院の入院患者と同列で扱っていいシロモノじゃない。
「しかし、なかなか面倒な標的ですね」
言って、ヴァージルは紅茶をすする。