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第6話 ちょっとした提案

「貴女ほどの力量を持つ魔術師は貴重なのです。女性の魔術師は尚更ですし」
「確かに父からも、『一般的に、女性は魔術師として大成しにくい』と聞いた事はありますが、町に出れば治癒や修繕を生業にしている女性の魔術師は、それなりに見かけますが」
 その素朴な疑問に、ミレーヌが苦笑交じりに言葉を返す。

「確かに、力がそれなりの者なら女性でも珍しくは無いでしょうが、魔術師として能力が高い者は珍しいのです。それは魔力の潜在能力が高い上級貴族の中でも同様で、稀に強い能力者が出て王族の女性の護衛に携わる為に王宮専属魔術師として出仕する場合は、以前から後宮に部屋を用意する事になっています。王宮内にある男性ばかりの魔術師用宿舎で暮らして頂くには、差し障りがありますから」
「それはそうでしょうね」
 さすがに納得したエリーシアが頷き、ミレーヌが微笑んでもう一押しした。

「実力十分なあなたを王宮専属魔術師として採用して慣例を適用させれば、特別扱いなどせずとも、後宮で彼女と一緒に暮らして頂けます。そういう条件ではどうでしょうか?」
 そんな自分達の事情や心情を十分考えてくれた上での提案と分かるそれに、エリーシアが悩んだのは一瞬だった。

「そういうお話であれば、私に異存はありません。一度その解除術式を試してみた上で、改めて今後の事を考えさせて下さい」
「分かりました。つきましてはもう一つ、あなたにお願いがあるのです」
「なんでしょうか?」
 この王妃様だったら、そうそう理不尽で不当な頼み事などしないだろうと思ったエリーシアは素直に頷いたが、ミレーヌはここで予想外の内容を口にした。

「今日の昼前に不躾な事をしでかしたレオン殿とジェリド殿に、謝罪の機会を与えて欲しいのです。彼らにあなた達へのお詫びの印に、明日の昼食を手配させましたので、宜しかったら召し上がって下さい」
「はあ……、それではご馳走になります」
「良かったわ。彼等にはくれぐれも失礼のないように言い付けておきますので。それでは直に会える日を、楽しみにしています」
「……恐縮です。失礼いたします」 
 一応、懇願の形にはなっていたが、王妃の申し出を撥ねつけるほどの強心臓は持ち合わせていなかったエリーシアは、何とか笑顔を保って通話を終わらせてから、床にがっくりと崩れ落ちた。そこにシェリルがやって来て、不思議そうに彼女を見上げる。

「エリー、どうしたの? 話は終わったの?」
「終わったけど……。明日、またお客が来る事になったわ。例の王太子コンビが、お昼をご馳走してくれるそうよ」
「え?」
「まあ、一応身元は確かだし、王妃様の様子だと問答無用で縛り上げて連行って事はないだろうし、この際遠慮なくご馳走になりましょう」
 そう自分自身に言い聞かせる様に呟くエリーシアを、シェリルは不安を拭いきれない表情で暫く見上げていた。

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