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だがしかし、〈悪堕ち〉の伸びきった右腕は、シルヴィに届く前に真上に向かって屈折した。可動域を軽々と越えた関節が、破砕音とともに粉砕される。
何が起きたのかすら理解できず、〈悪堕ち〉は呆然と右腕を見つめていた。真下から襲いかかった暴力の正体はシルヴィの蹴り上げだ。
続けて、拳を打ちつける。一挙一動のたびに流れでる血液は、すでに形をなそうとしている塊に近づいて結晶化。〈悪〉が持つ槍のような長い柄に、三日月を半分に割ったような刃が生える。
赤い大鎌。
柄を掴み、シルヴィは〈悪堕ち〉にとどめを刺そうと一歩踏み込んだ。対する〈悪堕ち〉は、脊髄反射のような荒削りでまっすぐな左の手刀を突き出す。先刻まで圧倒的な優位を維持していたとは思えないほどの、愚直な一撃はあっさりとかわされ──三日月型の刃は、〈悪堕ち〉の胸と翼を容赦なく貫く。
絶命した〈悪堕ち〉の体には、〈悪〉と同様に大小の亀裂が走る。我に返ったシルヴィが、師であった〈悪堕ち〉に触れようとするも、すでに遅い。貫かれた場所を中心にして黒い体はひび割れ、あっけなく崩れ落ちる。
直後、赤く世界を照らしていた太陽は、西の地平線へと潜りこんでいった。