04
長い黒髪を揺らし、〈悪堕ち〉が首を傾げた次の瞬間から、刃の嵐がシルヴィを襲った。
両手十指。その全てが刃となり、至近距離から連撃が繰り出される。殺しの意志が見えない、もてあそぶような攻撃がシルヴィの皮膚を切る。
鮮血が散る。にも関わらず、シルヴィの瞳は揺るがない。
更なる一歩を踏み出して、再度拳を握りしめて──シルヴィの喉は、血を吐くような声を吐き出した。
*
シルヴィという人間は、昔から負けず嫌いな性質を持っていた。
村で共に遊んでいた同年代の少年にも、喧嘩で負けないように可能な限りの手を尽くした。大の大人を相手に、無謀なまでに果敢に挑んだこともあった。
人類の天敵にすら勝ちたいと願ってしまうほど無鉄砲で、ある意味まっすぐな少女だった。
〈悪使い〉の力を手にしてからも、それは変わらない。村を守る、という大義名分はあったものの、本当の目的は強い存在に打ち勝つことだった。
ある日、村を訪れたもう一人の〈悪使い〉──ロランに師事を求めたのも、より強くなるための手段にすぎない。
いつかは師を超える。〈悪〉を殺すために創られた天使すら超える。
ひたすらに強さを求め続けたシルヴィが〈悪堕ち〉という壁に突き当たったのは、三日前のことだった。
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連撃の合間をぬって、拳は〈悪堕ち〉の顎へ突きささった。
クリーンヒット。硬質な音と共に〈悪堕ち〉の体が吹き飛び、両手の爪からシルヴィの血が線を描く。
肩を落とし、シルヴィは荒く息を吐き出した。