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ⅩⅩⅤ

「えっと…」
墓守は返答に困る。
「見られてはまずいものでもあるの?」
アイリスは墓守に迫った。
すると墓守は泣き出してしまった。
「おい、アイリス。何泣かせてるんだ」
ネジ子が責めるような目つきでアイリスを見る。
「私何もしていないじゃない!」
アイリスは顔を真っ赤にしながらネジ子に言った。
その隣で墓守が屈んでびくびくしている。
ネジ子がしゃがみ込んで墓守の目線に合わせる。
「すまなかったな。アイリスはこういうやつなんだ、許してやってはくれないか」
墓守はゆっくりと顔を上げてネジ子に抱きつく。
ネジ子はその頭を撫でてやった。
「それじゃあ私たちに協力してくれるかな」
墓守は小さく頷く。
そして部屋に入っていった。
しばらくして墓守が部屋から出てくる。
「今なら入れます」
墓守が手招きをする。
アイリスたちは墓守に導かれるまま部屋の中へ入っていった。

扉をくぐるとそこは細い通路のようになっていた。
通路を進むと先に左右に二つの扉があった。
「ここで少し待っていてください」
左の扉を指しながら墓守が言う。
アイリスたちが中に入るとそこは机と椅子が置かれた休憩室のような部屋だった。
アイリスは黙って部屋を物色する。
「ねぇ、これ見て」
アイリスは何かを見つけ、ネジ子を呼んだ。
ネジ子が近づくとそこには見覚えのある花が落ちている。
「これって…ムラクモソウか?」
その時扉が開いてさっきの墓守が手招きをする。
「お二人ともこれを着てください」
墓守は黒い服を二人に手渡す。
広げてみると墓守が来ている衣服と同じものだった。
アイリスたちは墓守の衣装に着替えて先に進む。

しばらく廊下を歩くと急に視界が開ける。
そこには数人の墓守が何かを中心にして集まっていた。
アイリスたちはその真ん中を覗く。
「!」
そこには横たわる仲間たちの姿があった。
「アル…」
アイリスが助けに行こうとするのをネジ子が止めた。
ネジ子はアイリスのほうを見て首を横に振る。
(今行って気付かれるのは避けたい。それくらい君でもわかるだろう)
ネジ子は静かにアイリスを諭した。
アイリスは唇をかみながら元の場所に戻った。
その時、円の中心近くにいた墓守が手を上に掲げる。
「夜の王よ。この者たちの魂を贄に我らを救い給へ」
墓守がそう唱えるとクラークたちの身体から白い煙のようなものが出てくる。
しかし、その時ロイが目を覚ました。
「ん?一体何してるんだ」
中心の墓守が慌てて手を下げる。
ネジ子はその一瞬のすきを狙って飛び出した。
「“スクリューブレイド”」
ネジ子は剣を仲間たちの頭の近くの床に刺す。
床の板が割れ木片が辺りに飛び散った。
「早く起きろ!」
ネジ子の怒号で一斉に目を覚ます。
「よし」
ネジ子は短く言い剣を抜き取り、墓守のほうに剣先を向ける。
墓守たちは騒然とした様子でネジ子を見ている。
「私たちは事を構えるつもりはない。しかし、君たちは私たちを生贄にしようとしていた。これはどう説明する気だ?」
墓守たちは黙ったままじっとネジ子を見る。
「少しだけ、私たちの話を聞いてください」
墓守の中の一人がネジ子に言った。
ネジ子は頷く。
墓守は「ありがとうございます」と言って話し出した。
「私たち墓守は三年に一度、夜の王と呼ばれるモノに贄を捧げています。今となっては夜の王の正体を知る墓守はいないのですがもし、贄を捧げなければ私たちに明日は来ないのです。その為、あなた方のように何も知らないでここに来た旅人を眠らせ、贄として夜の王に捧げているのです」
アルヴァたちは墓守の話に出てきた夜の王という言葉に少し興味がわく。
「つまり、君たちは何の罪もない人々を犠牲に生き延びてきたという事か」
ロイがわざと辛辣な態度を取る。
墓守は頷いた。
「夜の王っていうのはそんなに凄いの?」
アイリスが尋ねる。
「ええ。伝承では逆らった人間がいるとその人間が住む町から太陽の光を奪ったという話です」
「じゃ、倒すか」
ロイが軽く言った。
一瞬の沈黙。
そのあと墓守たちが一斉に驚きの声を漏らす。
「あなたは今何を聞いていたのですか?夜の王に逆らったらこの町が永遠の夜に包まれてしまうのですよ」
墓守たちは必死にロイを説得する。
が、ロイは聞く耳を持たなかった。
「夜の王っていうのはどこにいるんだ?」
ロイの質問に一人の墓守が答えた。
「ブロンド山の頂上で呪文を唱えるとまがまがしい雷鳴とともに現れます。その呪文は私が知っているので、もしあなたが本気ならば私もついて行きます」
その墓守からは目こそ見えないものの確かな決意が伝わってきた。
ロイはその墓守と固い握手を交わす。
その様子を見てほかの墓守は膝から崩れ落ちた。
「一度部屋に戻って支度をして来よう」
そう言ってロイたちは部屋へと戻る。
その背中を見ながらさっきの墓守がポツリとつぶやいた。
「本当に倒せるのかしら」

支度を済ませたアイリスたちはブロンド山の前に立っていた。
「さて、ノーツアクト結成以来初めての大仕事よ。気合入れていきましょうか」
アイリスはネジ子に乗りながら腕を高く掲げる。
「そんなこと言っても、その様子じゃ決まらないよなぁ」
ロイが呆れたような声で言う。
「何か言ったかしら?」
「いいや何も」
アイリスはロイの態度を不思議に思ったが、あまり気にしないことにした。
墓守は本当にノーツアクトに任せて大丈夫か少し不安になった。
「さぁ、無駄話はそれくらいにしてそろそろ登ろう」
ネジ子の合図とともに一行はブロンド山へ足を踏み入れる。
少しばかりの高揚感がアイリスたちの士気を上げる。
一歩進むごとにその高揚感は高まっていった。
しばらく歩き、一度見た光景が広がる。
アイリスたちは軽い準備運動をする。
アイリスたちの準備が整ったのを確認し、墓守は呪文を唱えた。
「闇を統べる夜の王よ。その姿を今俗界へ現しその力を見せ給へ」

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