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第2話

(ひとまず、おれの部屋へ参る。着いてきてくれ)

獣王の秋嵐様に言われ、春樹は、立ち上がろうとしたが、腰が抜けてしまい、立ち上がれない。

情けない。このぐらいで腰抜かすとか、何やってるんだ俺は。

(もしや、腰が抜けたか)

「ちっ違う。怖かったから、力が抜けただけで、別に立てないわけじゃない」

認めるのは、なんとなく悔しくて、春樹は、無理やり立ち上がろうとするが、足にまったく力が入らない。

そんな春樹を見ていた、秋嵐は、心の中で、可愛いやつだ、と思っていた。

(少し、待っていろ)

秋嵐は、何処かに走って行き、直ぐに戻って来た。口には大きな上着を持っている。

「なっ、おろしてくれ」

唐突に人化した、秋嵐様の引き締まった体に、一瞬見惚れた、春樹だったが、上着を素早く着て、彼に横抱きにされてしまった。

紅蓮の髪に、紫の自分と同じ色の瞳でかなりの美形だ。

同じ男にこんな事されても嬉しくない。

「大人しくしていろ。可愛いいなお前」

チュッ

額に優しいキスをされ、春樹は、驚きで、目を丸くした。こんな事されたのは、生まれて初めてだったのだ。それ以上に、男にキスをされたという気持ち悪さで吐き気がした。

コウやコウキ、コウリンと同じように、この男も勝手に俺の心に入ってこようとする。

「そのまま、身をまかせておくのだぞ」

頼むから、俺の心を乱さないでくれ。

春樹は、彼の顔を見ていられなくて、目を閉じた。


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