01
クリスマス・イブ。
今日の町は、いっそ不気味なほど異様だ。
日が沈んでそれなりに時間が経っているはずなのに、周りは絶え間なく光るイルミネーションで照らされている。歩く人間も、店に呼び込む人間も、普段と比べものにならないほど多い。冬場特有の暗い色ではなく、赤や緑が多く見えるのも私の神経をざわつかせた。
どうして、今日に限って外に出てしまったのだろう。
しかも、上着のポケットに折り畳みナイフを入れて。
独りで。
目的もなく。
詩織と会う予定だって、ない。
ここのところずっと、どす黒い感情が力を増し続けていた。灰色の仮面は何度も剥がれかけ、やけに目が冴えて眠れない日もあった。
オクルスからの依頼は、まだない。
嫌悪や不快を感じていたはずなのに、私はオクルスからのコンタクトを待ちわびている。
それとも、この縁はすでに終わってしまったのだろうか。
だとすれば、今の私に必要なのは「きっかけ」だった。
あと一歩。踏み込む要素が足りない。
それさえあれば、私は……なにをするつもりなのだろう?
「────?」
私にかけられたらしい言葉は、喧噪にまぎれて聞きとれなかった。
となりには若い男がいて、私と歩調を合わせてなにか話している。私が足を止めれば同じように立ち止まって、さらに親しげに接近してきた。
その顔に、見覚えはない。
やけに明るい色を発していて、なにやら私をどこかに誘いたいらしい。
ぼやけた頭が適当に相槌と返事をして、私は男に導かれるまま浮ついた町を歩く。
しかし、男の向かう方は明らかに寂れていた。「穴場があるんだよ」という言い訳染みたせりふがわざとらしく、聞き取ろうとも思っていないのに耳に残る。
男の持つ色は、徐々に黒へ近づいていた。
私と同類か、あるいは。
そう思ったところで、私は男に肩を掴まれた。
そのまま背中を薄汚れた壁に押し付けられて、男と正面から向かいあう形になる。
「騒ぐな」
そこで初めて、私は男から明瞭に言葉を聞きとった。
男は、私に見せつけるように刃物を持っている。やけにきれいなナイフだった。汚れがない。この刃は、血に濡れたことがあるのだろうか。
きっと、ないのだろう。
かわいそうに。
「おい、なに笑ってんだ」
苛ついた男の声で、私は灰色の仮面が剥がれていると自覚した。
そうか。あなたが「きっかけ」だったのか。
「おとなしくしてろ、いいとこに連れてってや──あ?」
肉を裂く感触が、両手に伝わってくる。