第3話
「白瑛さん。俺はこのままでいいのか」
「ああ、ハルキ。お前のおかげで、掃除が早く進む。そのままでいろ」
なんと、春樹がパンダの群れに近付いたら、そこにいたパンダ全員が、春樹を囲み、1番大きなボスパンダ、名前をコウというのだが、コウの膝に乗せられたのだ。
「掃除を、1人でさせるのは、悪いなと思いまして」
自分はパンダと戯れているだけ、そんなの、不公平だし、新人なのに。俺はなんの役にもたたないな。
「………」
こいつは、自分の容姿を理解しているのか、上目遣いで、申し訳無さそうな顔をするな、自分で無ければ襲われているぞ。無防備なハルキの申し訳無さそうな顔をみていられず、白瑛は、彼にブラシを渡す。
「向こうに、風呂がある。パンダを洗ってきてくれ。こっちが終わったら私が呼びに行く」
白瑛が、渡したブラシを見て、春樹の顔は目に見えて嬉しそうな顔になった。
「分かりました」
春樹が立ち上がろうとしたら、彼を膝に乗せたボスパンダのコウが、膝に乗せた時と同じように、春樹の襟首を口で咥え、浴槽の方へ歩き出した。
「白瑛さん……」
助けを求めるように、白瑛さんを見るが、諦めろというように、首を横に振られた。
脱衣所のような場所で、ようやく地面に降ろしてもらい、文句でも言ってやろうかと思ったが、後ろを振り返った春樹が、見たのは、またもや、言葉を失う光景だった。
「なんだ、人間。このオレがあまりに美形すぎて声も出ないか」
ボスパンダがいた方には、パンダ耳の生えたイケメンの青年がこちらを見て笑っており、彼を守るようにこれまた、顔の整った2人が立っている。3人?以外はパンダのままで風呂にさっさと行ってしまう。
「バカみたいな発言は控えてください、コウ」
「バカは、言い過ぎだよ。コウキ。リーダーの性格だし、それに彼、びっくりしているだけだと思うよ。ぼくは、コウリンだよ」
コウキとコウリンに、顔を覗き込まれ、我に返った春樹は、彼らから距離をとった。無論恥ずかしかったからだ。
「人間、とりあえず風呂だ。入りながら色々聞かせてもらう」
ものすごく偉そうな、上から目線に、春樹は、さすがに、我慢の限界だった。
「なんで、あんたに命令されなきゃいけないんだよ。俺……俺だって、いっぱいいっぱいで、どうしたら良いか分からないのに」
春樹は、こう見えても寂しがり屋で、泣き虫で、我慢強い所はあるが、ありえない事が立て続けに起こり、涙をこらえる事が出来なかったのだ。
春樹の紫の瞳から落ちる、まるで、宝石のような涙を見た、3人が慌てたのは、言うまでもない。
「リーダー、何泣かせてるの」
「オレ様のせいか」
「貴方以外に誰がいるのですか、泣かないで下さい。わたしが色々教えてあげますからね」
コウキの優しい言葉に、春樹の涙が止まった。
「……っ、すみません。泣いて、ありがとうございます」
仕事を終わりにしたいという、春樹に、彼が他のパンダのブラッシングを終えるまで、3人は風呂に入り、頭を洗い、待っていてくれた。
脱衣所の小さな休憩スペースで、白瑛さんが呼びに来るまで、コウ、コウキ、コウリンと話す事になった。