04
同じ制服と上着を着た学生たちと共に、開いた扉からホームに降りる。
人の流れに身を任せ、いつも通りの道を進む。レールなど敷かれていないのに、まるでそこに定められたルートがあるかのように、私の足は決まったところを進んでいく。
入力された行動を、ひたすら繰り返す機械。そう思えば、灰色の仮面を被るのもたやすい。
──のだが。
「あ、遥香だー」
声をかけられて、私はそちらへ視線を向ける。
知っている声だった。というよりも、家族を除いて最も聞き慣れている声だった。
思い浮かべた通りの顔が、そこにはあった。私と同じ制服を着た、しかし正反対の色を放つ『友人』がこちらに向かって手を振っていた。
「同じ電車乗ってたんだねー。偶然!」
朝から元気なことだ、と思うも、嫌悪感はない。
「おはよう、詩織」
「うん、おはよー」
気の抜けた表情と口調で、詩織は私のとなりに並ぶ。
そこからは、彼女のワンマントークショーだ。延々と、際限なく、よどみもなく、しかし気の抜けた口調のまま様々な話題を口にする詩織に、私は適度に相槌を返す。
聞き役に徹するだけでいいのは、私にとって楽なだった。しかも、詩織は私の反応をいちいち気にせず、自分の好きなように話し続ける。
ホームから階段を上がって、改札を抜け、駅から外に出るまで、詩織はずっと昨夜放送された恋愛ドラマの話を続けていた。
冷たい風を遮るものがなくなって、ようやく詩織が言葉を途切れさせた。オーバーに肩をすくめ、鞄からマフラーを取り出す。
束の間の沈黙。と思えば、マフラーを巻き終えた詩織は恥ずかしそうに言葉を継いだ。
「いつもずっと話聞いてくれてありがとねぇ。他の人はここまで聞いててくれないからさぁ」
「いいよ、気がまぎれるから」
「あ、詩織さんを暇つぶしに使ってるなー? まぁ、使ってくれてるならそれでいいけどー」
そう言って、詩織はやはり気の抜けた笑みを浮かべる。
空の色は薄く、太陽も弱々しい冬の朝だというのに、私は眩しさすら感じて詩織から目を反らした。
周囲には、私たちと同じように雑談を交わす学生たちがぞろぞろと歩いている。気の知れた仲の相手に見せる感情の鮮やかさは、電車内で見るものとは比べものにならない。
加えて、期末テストが終わった長期休み直前の雰囲気が、彼らを浮足立たせていた。
目がちかちかしてしまうほど、色の数は増している。
私の奥底から漏れ出ようとする黒い感情は、しかし再び別の話題について語り始めた詩織の声で塗りつぶされていった。