03
【世界】が離れ、十三番が立ちあがる間に、振動と甲高い音がもう一度発生。神殿内に立つ白服が六人になっているのを見て、【世界】は肩をすくめる。
「援軍か、まいったな」
内容に反し、口調は楽しそうだった。
一枚布を巻いただけの姿は見るからに戦いに向いていないが、不安や恐れなどどこからも感じられない。それどころか余裕さえにじみ出ていて、子どもの遊びに付き合っているようにも見える。
「せっかく【死神】がいるんだ。分析くらいはするけれど、奴らの相手は君に任せてみようかな? 思う存分、本領を発揮してくれていい」
「本領もなにも、鎌を持つ腕がないんだが……」
十三番の引きつった苦笑にも、【世界】は動じない。
「ふふ。君は【死神】と、そうだね……とてもいい関係を築けている。正直言って、いま腕がないのが不思議なくらいね。だから、思い出してくれ」
なにを、と問うだけの間はない。
十三番が視線を向けようとするのを、【世界】が咎める。
「ほら、彼らは無駄話を嫌う性質らしいよ。よそ見しないで身構えたまえ」
続けて耳に飛び込んできたのは、二階の高さから降ってくる六人分の合唱。
内容は聞き取れないが、旋律は二つに分かれている。
故に、発動する奇蹟も、二種。
芝生の一部が盛りあがり、炎が十三番と【世界】を取り囲む。
「へぇ、複数の旋律で土と火を操るのか……とても興味深い……」
顎に手を当てる【世界】の言葉通り、白服たちの奇蹟は土製の人型と炎で中庭を半分に区切っていた。
高い位置にいる白服たちから見れば、中庭にいる十三番と【世界】に隠れる場所はない。炎で逃げ場をなくしてしまえば、建物内に身を隠すことも不可能になる。
地面のあちこちから生えてきた土の人型が、ずるりと足を抜く。炎で囲み、土人形で包囲を狭めるつもりらしかった。
ただし穏健な雰囲気などなく、土人形の両腕の先には、手の代わりに錐状の刃が生えている。
「主旋律は土。火の方は、今のところ補助的な……裏方の役目を果たしているようだな。旋律も声量も地味だ。グッサリやられないように気をつけてれば問題ないだろう」
「本気で言って……っ!」
余裕のある【世界】の解説に対し、十三番は返そうとした言葉すら遮られる。
腹部を狙う土人形の突きを避け、接近したもう一体を蹴って遠ざける。十三番がざっと見ただけでも、十以上の土人形が同時に動いているのを確認できる。
立ち位置と数で劣勢な上、【世界】には実力を示す様子がない。そして、十三番はいまだ【死神】の使い方を掴めずにいる。
自身を狙う五体の土人形から逃れながら、十三番は【世界】から言われた言葉に意識を向ける。
──思い出してくれ。