02
ひとまず【世界】へ声をかけようと、十三番は中庭を横切り──その途中で、二階の窓から小柄な人影が飛び出してきた。
長い白髪と、赤と青に染められた布がはためく。
三色の放物線を描きながら、【世界】は悪戯っぽく笑っていた。
「おや、ちょうどいいところに」
「なん──!?」
十三番の胸に【世界】が激突するのと、【世界】が飛び出してきた部屋で爆発が起こるのはほとんど同時だった。
倒れざま、長い銀髪の隙間から、橙色の炎と、砕かれた石やガラスが見える。
十三番の胸元では、【世界】がどこからか一枚のカードを取り出していた。
描かれた図柄は剣──風の象徴。【世界】の魔術で風の壁が生まれ、飛び散った石とガラスの欠片が【世界】と十三番の周りを避けていく。
爆発の余波からは免れた、と思考する間もなく、十三番は芝生の上に倒れ込んだ。引き延ばされた感覚が元に戻る。
咳き込む十三番の周囲で、細かい欠片がバラバラと地面に落ちる。
【世界】はといえば、飛び込んできた姿勢のまま十三番の上に居座って、興奮気味にまくしたてている。
「いやはや、窓から飛び出して爆発から逃れるなんて、いくら私でも初めての体験でちょっとドキドキしたよ。着地については全く考えていなかったんだが、本当にちょうどいいところにいてくれたね」
「ふざけてる……場合か……」
なんとかそれだけ返して、十三番は馬の亡骸がある方へ目を向けた。
石やガラスの欠片が飛び散る領域からは逃れたらしく、死体の周りに変わった様子はない。ただ、余波を受けてまた数枚のハーブが吹き飛んでいったらしかった。
ひとまず息をつく十三番に対し、【世界】は押し殺したような笑みを浮かべる。
「そう、ふざけてる場合だよ」
「?」
【世界】の言葉選びに違和を感じ、十三番は思わず視線を戻した。
こらえられない、という様子で、【世界】の口元は笑みの形を作っている。ただし瞳は真剣そのもので、刃のような冷たさすら伴っている。
それは、探究者の目だ。
新しい発見を記憶に焼きつけようとする、飽くなき知的好奇心の塊が、【世界】の黒い目の奥には隠れている。
「日常と非日常の差異。……君が忘れていってしまっている、悲劇の再現さ」
そう言って立ちあがった【世界】の背後で白が揺れるのを、十三番は見逃さなかった。
神殿の二階にぽっかりと開いた穴の向こう、金の髪を保存していた部屋に、三人の白服が並んでいる。
忘れるはずもない敵の姿に、思考は鮮明さを取り戻していく。混乱や疑問など、彼らと対峙するときには抱いていられない。