プロローグ
『うわ!』
気がつくと俺はフワフワと漂っていた。
気がつくとというのは表現が正確じゃないな。
死んだ事に気がつくと、俺は魂だけになって、白い霧の中をフワフワと漂っていたのだ。
『首がもげれば助からんよな』
原因は不明だが、俺の頭は身体だけを残して空高く舞い上がっていた所まで覚えている。
『で、この後は三途の川?』
「違うよ」
って、誰だよ。
突然、頭の中……じゃない、魂の中に声が響いてきた。
「いやー、ごめん、ごめん。首取れちゃったね」
『はぁ?』
取れちゃったって、どういう事だ?
「ちょっと退屈になったんで、遊んで欲しくて手を伸ばしたら、加減を間違ってスポーンってね」
『なんだよそれ』
「まぁ、少し申し訳ないなぁ……なんて思ったから、ここに連れてきたんだけどね」
ここ?
この白い霧の世界か?
「まぁ、あの首の取れっぷりは笑えたから、笑わしてくれたお礼に、いいものをやるよ」
『いいもの?』
「そうだなぁ……とりあえず、ほい」
ぽん! という表現が正しいだろう。
魂だけだった俺は、突然、肉体を得た。真っ裸なのは魂から生き返ったからなのか……
『身体だけじゃつまらないから、改造しようか』
「ちょっと待て! あ、声が出た……!」
自分の声が自分の耳で聞こえるようになったという事に新鮮さを感じる。
魂の中に響いていた声が、今度は頭の中に響くように聞こえる。
「いや、そんな事はいい! 改造って何だ? どうして俺は生き返った?」
『生き返った訳じゃないんだけどね。良く見てみな、元とは違う姿でしょ』
「そう……なのか?」
俺は両手を見てみるが、特に変わった様子は無い。
『ああ、もう自分の身体って認識しちゃったから違いが解らないか。まぁ、それはどうでもいいや。じゃ、さらに改造、改造っと』
頭の中に不穏な言葉が響く。
「改造って、何だよ! 変なことをするのは勘弁してくれ」
『だめー。普通じゃ面白くないじゃん。それに、今度の行き先は生身の人間だと、すぐ死んじゃうよ』
「今度の行き先って、普通に生き返らせてくれるだけで十分なんだが」
『もう無理。ほら足元をみてごらん』
そう言われて足元を見ると……
「う、うわ! 落ちる! 落ちる!」
俺はまさにスカイダイビング中のような状況になっている事に気が付いた。
さっきまで周りにあった白い霧はすっかり晴れ渡り、眼下には広大な森林が広がっている。
『はい、それじゃ元気でね。そこが君の新しい世界。一杯、笑わせてくれる事を期待しているよ』
「うぎゃー」