お酒は二十歳になってから
気持ちよく晴れたある日のこと。
「最近、仲いいよね2人」
「んえっ!? ま、まあ、そうかもな」
七色プロダクションのアイドル部署のある建物の休憩所で美緒と雛はやることもなく雑談している。
佳奈はソロで、雑誌モデルの仕事が入っていて留守にしている。その他のアイドルもレッスンや建物内の別の場所にいるようだ。
「佳奈と仲良くなれたのはいいと思うけど、どうやったの?」
「うーん……まあ、あれだ。共通の話題を見つけたみたいな」
「へー、趣味も趣向も違いそうなのに」
「まあきっかけは偶然にってやつだよ」
「なんか羨ましいな」
「そうか? 雛だってすぐ仲良く慣れるよ」
「そうだといいなー」
そんな休憩室の扉がゆっくり開けられる。
「あれ? ふたりとも今日の仕事はもうお終い?」
「美園《みその》さん。お疲れ様です」
「お疲れさま」
笑顔でそう返す。2人と比べて少し大人びた彼女は渡辺美園《わたなべみその》――年齢は隠しているが20歳がこえていることは確実な、同じプロダクションのアイドルである。
「美園さんは今日はオフですか?」
「そう。だけど、家にいてもやることなくて結局プロダクションに来ちゃったのよね。それで夜にプロデューサーさんと飲みに行こうと思ったら、連絡返ってこないのよ!」
「あぁ、今日は夕方くらいまでは佳奈と、あと薫のとこもだっけ?」
「たしかそんな感じの予定だったと思う……」
このプロダクションには何人かのプロデューサーがいて、それぞれ何人ものプロデュースを担当している。ひとりのプロデューサーが担当するアイドルをまとめてここではルームと言っている。
雛たち3人のユニットと美園の担当プロデューサーは同一人物で、その他にも何人か担当している。
が、アイドル部署の中では新しめのルームのため人数は一番少ないが、それゆえにスカウト活動も定期的に行っていて、忙しいようだ。
「まあ、それなら仕方がないわね……でも、ほら、わたしたちのルームって二十歳以上の子、少ないというか、わたし以外にはいないじゃない?」
「そうですね。美園さんがおそらく一番上かと……それでわたしが一番したかな?」
「いや、たしか中学生がいた気がする……最近はいったからあたしも見たことないけど」
「あれ? そうなんだ」
「中学生か……」
美園は若干遠い目になってしまっていた。
「ま、まあ、そんな感じですから、返事が来ないのは無視してるんじゃなくて、仕事中だからですよ。ね、美緒!」
「そうそう! 夕方ごろには帰ってくると思うし、それまでのんびりしましょう!」
「そうね~……でも、まだお昼じゃない。何かないかな~」
「美緒なんか持ってない?」
「無茶振りだな……あぁ、でも、談話室にパーティーゲームなら多分持ち帰ってないからあると思うけど」
「じゃあ、それやろう!」
「お、おう」
「美園さんも!」
「……そうね。何もしないより、後輩と親睦を深めるのもありよね」
談話室においてある家庭用ゲームで、1日を過ごした3人だった。
ちなみに、夕方に戻ってきたプロデューサーは夜は暇だったらしく、そのまま美園さんと飲みに行ったらしい。