第九話_基礎知識を学んじゃおう。
「魔術大会?」
口の中の食べ物をなくしたフィレイがオウム返しに聞いてくる。
「うん、今日学校の正門でさ、アンジェ・レルトさんと、イレイ・フォルテさんが喧嘩してるのを止めたらなんか2人とも魔術大会って話を出してきてさ。俺もその大会に出なきゃいけないのかな?」
メモ帳を見ながら説明をする。
「はぁ…。またあの2人ね…。まぁよくやる」
どうやら2人の喧嘩は本当に有名らしい。
「それで?俺は参加しなきゃいけないのか?」
「いいえ。各クラス代表2名を選出か決闘で決めるから2人の中に入らなければ出ることはできないわね。
…ていうか!貴方はまだ魔術の基礎が何もできてない状態なんだから出れるわけないわよね」
「まずはそこからだな」
「ええ、これから私の時間が余った時に教えてあげましょうか?支援魔法」
「本当か?ありがとう!」
「でも今日は学校あって疲れちゃったから明日からにしない?色々教えてあげる」
「お、おう」
この『色々』の部分に性的魅力を感じてしまうのは男の性だろうか。
「ご馳走様でした」
「…そういえば、その食べる前と終わった後に変な事してるわよね。それなんなの?」
「あそっか。さすがにここまでは日本と違うか」
「私達にも是非。教えて欲しいです」
後ろを振り向くとクレハとスミルが興味津々な目でこちらを見ていた。
「私にも是非教えて欲しいね」
視線を元の位置に戻すと、少しほうれい線が出始めた感じの古株男が座っていた。
彼はこの屋敷の主でゲン・アシュベルさん。昨夜お邪魔したときには外出してしまっていて、今日帰ってきたそうだ。
ちなみに挨拶はさっき済ませた。
「俺の住んでた世界ではこうやって食べ始めと食べ終わりに手を合わせて『いただきます』『ごちそうさまでした』って言うんです。これは料理に携わった方への感謝と、食材への感謝を表すんです。まぁ、本当はどうなのか俺にもわかりませんが。なのでもしよかったらみんなでやりましょう」
「なるほど、食べ物に対しての感謝か。たしか、シンヴァ―教の信徒達は別の祈り方をしていたな」
「ええ、そうですね。お父様。私も食べ物に対する感謝は心の中だけにしていましたが、行動にしたことは一度もありませんでした」
そういってフィレイは両手を胸の前で合わせて。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
お父様もつられてやっていた。
「うん、とてもいい習慣ね。なんか心が洗われたような気がするわ」
「ああ、そうだな」
ゲンさんが目を細めて何か遠くを見つめているような表情だ。
「そんな風に言ってもらえてうれしいです」
そんな反応に俺は気分をよくして微笑んで見せた。
そしてふと思ったことを口にしてみる
「そういえば、この世界の階級制度?ってどうなってるんですか?」
「え、…ああ、そうか。君は異世界から飛ばされてきたんだったね」
「え、そこ忘れます?」
「いやはは。歳かな」
「ははは」
そして二人で笑いあった後、ゲンさんが居住まいを正してこちらを見る。
「さて、この世界の階級だが、最低の階級は平民。奴隷はないよ。奴隷制度は今から80年前に撤廃された。そして最高の階級は皇帝。皇帝になる資格がある人間は第1貴族か皇帝の親族だね。これは国民投票で選ばれる」
「あの、階級の種類を全部教えてくれませんか?」
「わかった。低い順から平民、華族、貴族、皇帝と、大まかにまとめるとこんな感じだよ。華族はもとは貴族と同じ位だったのだが貴族の範囲が広すぎるとの意見から分けた。華族は第3華族まで、貴族は第6貴族まである。ちなみに大まかな割合は平民7割。華族、貴族が2割。皇帝やその親族が1割未満といったところかな」
「そうですか。ありがとうございます。では次にワイドワールドとクローズワールドについて説明をお願いできますか」
「…わかった。でも、言葉だけでは説明が難しい。10時くらいは予定が空いているかね?」
「はい、空いています」
「スミル」
「は、はいっ!」
「10時前になったら彼を古書室にお連れしてあげてくれないか」
「畏まりました」
ーーー同時刻ーーールイル資料館の屋根ーーー
「………どうだ」
「んー順調ってとこですね。まだ完ぺきではないです」
「………引き続き作業を続行しろ」
「了解っす♪」
とある資料館の屋根に2つの影が浮かんでいる。
「………必ず、あのお方の願いを送り届けなければいけない…」
直後、2つの影が左右に散る。