第七話_話
俺には祖父がいた…らしい。
あれはまだ俺が幼い頃の出来事だった。
大人たちが懸命に家の中を駆け回ったり、長方形の物体を耳に当てて騒いでいる人がいたり。
その日の俺の家は戦争でも起きたかのような喧しさだった。
お父さんが鬱になった。
どうやら大切なものを失ったらしい。俺にはその時のお父さんの背中が蟻のように小さく見えた。
小学5年生の時だった。
小学6年生の時、いじめに遭った。理由は「学級委員だからって調子にのるな」だそうだ。
俺は友達を傷つけたくないから何もしないで殴られていた。
その時。ある少女が満身創痍の俺の前に立ちはだかって庇ってくれた。
何度か言い争った後。少女に殴りかかった。
彼女は赤い水を鼻から出して俺の体に当てた。
俺は武道を習っている。
祖父に聞いた。「女の子は何があっても守らなくてはならない。それがたとえ、全く意味のないことでもだ」
彼女は傷ついた。
俺は何をやっている?
彼女は味方。あいつらは敵。そう。テキダ。
正直。今思えばどうかしていたと思う。
家庭内が祖父の失踪から変わり。あまりいい思いをしていなかったのもあるかもしれない。
でも、俺は一生この事を悔やむだろう。
俺は男子全員を殺した。
1人には木の枝を首に刺し。残りの2人は首の骨を折ってしまった。
全員といえども3人。たかが3人だ。
いや違う。
「アぁああぁ…っああぁああぁああああぁぁぁああああぁあああぁああぁぁぁああっぁ!!!」
俺はなんてことをしたんだ。
俺を3人も殺してしまった。
吐き気。頭痛。腹痛。様々な痛みが俺に向かってくる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
誰もいないのに謝り続けた。これしか今の俺にはできない。
大好きな人を守るための武道。
なのに、俺は人を殺してしまった。そう、殺した。
俺は武道を使う『恐ろしさ』をこの日、体に刻まれた。そして、戦うことの矛盾を。知った。
裁判の判決は。無罪。明らかに向こうに非があり、しかも関係のない女の子の顔を殴った罪の方が重い。これからは子供に対する教育方針を考えて。二度とこのような裁判を行わないように全力を尽くすべき。と、裁判長は言った。
何故だ。俺は人を殺したんだぞ?3人も。なのに無罪。ふざけるな。罪を償わせろ。
その日から俺は毎日決まった日時に精神が不安定になる精神病を患った。
「ああああっああああぁあああ!!!うわあああ!!!」
ベッドを叩き。羽毛が飛び。壁に拳型の判子が押される。
無罪判決を受けた俺は数々の信頼を失った。友達。親戚。武道教室の生徒。
だがその中。俺に笑顔を向けてくれる人が数名いた。
姉。そして翔だ。
親も話しかけてくれたが、少し恐怖を抱いている場面があった。
だが、翔と姉はそんなことしなかった。
いつも笑顔。裏で恐怖している様子が見当たらない。
彼らと話した日の夜は決まって精神病がひどくならなかった。
「ねえ、俺の事怖くないの?」
翔に聞いてみた。
「怖いよ」
「じゃあなんで」
「怖いのはお前が狂人だったらって事。もうお前は命の重さを理解している。それはこの数日の様子で理解できた。だから安心できる。信頼できる。だからさ、俺のパートナーになってくれよ」
それが、俺と翔のパートナーを組むきっかけとなった。
今思えば翔はこの当時からとても精神的に大人だったんだと思う。
それから俺と翔はペアを組んで試合に勝ってきた。
「なぁ、あいつらが」
「そうそう。いつも色んな型や試合の大会に出て優勝、準優勝を搔っ攫っていく行くやつらだろ?ほんと、才能あるやつはこれだから…」
「まったくだ」
「チートだチート。ほんと、つまんねぇ世の中だよなぁ」
「まったくだ。はははっ」
「あいつらッ!」
「よせ、翔」
「なんでだよ!あいつら俺達の、いいや。雅の努力も知らないで…」
「いいんだよ。俺は大切な人を守るために鍛えてきたんだ。だから別にこんな事大したことじゃない。それにお前がいるから俺は全然問題ない。まぁ、多少イラっとするけどな」
そう言いながら笑って見せる。
ウソだ。本当はめちゃめちゃいらついている。
「……分かったよ」
「よし、じゃあ帰ろうぜ!」
「…ああ」
そう言って翔も笑ってくれる。
そして肩を組み合ってがははと笑いながら帰る。
俺とあいつはかけがえのない大切な友人だ。理解されなくてもいい。
こうして俺達は親友になった。