05
書かれた文字に目をこらし、覚束ない手つきでページを繰った。目的の名前はすぐに見つかった。
ジャスティーナ・クリッフェント。
私の名前と詳細が記述されたページが、私の右手に掴まれていた。
国が滅んでも私だけ生き延びたい、なんてことを思っているわけではない。
ここを生き延びたとして、国が滅ぶのなら行く当てもない。
世間知らずで、これといって秀でたところのない、滅んだ国の末姫が死の定めから逃れたとして、ろくな末路は辿らないだろう。
ただ、そんな未来のことを考えて行動できるほど、私の体は苦痛に慣れていなかった。
今はただ、毒の苦痛から一刻もはやく逃れたい。
死よりもはやく私自身を救えるのなら、死の定めなど放り捨ててしまおう。
ぐ、と力を入れた右手が、わずかに震えた。
本なんてもの、読むことを許されなければ触れもしなかった。
鍵をかけた棚の中に、整然と並ぶ革張りの本。
そのページを破るなんてこと──と思ってから、ふと笑みがこぼれた。
これは死者の書。私の死を書いたページだ。
本を破ることへの禁忌感より先に、人の身でありながら死の定めを乗り越えることを畏れるべきではないか。
発想が、あまりにも小さい。けれど、その小ささは私に相応しいもののように思えた。
きょうだいたちと比べて、特に秀でたところはない。その上、国を救うための生贄となることすらできず、別の誰かを救うより苦痛から逃れることを選んでしまう。私は、王女という立場に見合わない、ちっぽけで甘っちょろい人間だ。
目をつぶって、右手にさらに力を入れた。
ページを破る感覚が、皮膚を伝って右腕に浸透していった。戻ることのできない一歩を踏み出した、などという意識すら、私にはない。体中を支配していた苦しみが薄れていくのが、私にとってはもっとも重要なことだった。
安堵した体からずるずると力が抜け、疲弊した意識がまぶたを下ろしていった。
次に私が目覚めるとき、「だめな王女でごめんなさい」と謝る先は、果たして存在するのだろうか。