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レイク十四歳、学園に入る

 レイクは順調に成長し、十四歳の誕生日を迎えた。
 クリスタロス国立学園の試験を受ける。
 召喚魔装士を育成する学園だ。

 召喚魔装士になるには、裏の世界といわれる魔界から、パートナーとモンスターを召喚する。
 儀式をすると、召喚者にふさわしい魂を持ったモンスターが召喚されるのである。
 しかし魔界とリンクを繋ぎやすい場所や、パートナーを呼びだす儀式に必要な宝石や薬草。呼びだしたパートナーを魔装化させるのに必要なクリスタルは、国で管理されている。
 一般人が自力でやるのは、ほぼ不可能なのだ。

 そこで学園である。
 国は召喚魔装士を育成し、輩出する。

 輩出された召喚魔装士の進路は、様々である。
 国のお抱えになることがあれば、冒険者になることもある。
 世界各地の秘境なダンジョンにはレアなアイテムも眠っているため、それはそれで需要があるのだ。
 一〇〇人にひとり受かるかどうかといった難関なのだが、レイクは首席で合格した。

 学業にも励む。
 学園では、一年目は基本的な知識を学ぶ。
 そこで一定の成績を納めなければ、モンスターを召喚するための儀式をさせてもらえない。

 レイクは本気でがんばった。
 一〇億人にひとりという凄まじい才能を認定された身で、人の六倍がんばった。
 その結果獲得した、ただの神童と言うのには理不尽すぎる能力に、誰からということもなく言われるようになった。


 理不尽な天才、アーリアス・ジーニアスと。


 下級貴族のレイクが実績を重ねていく行為には、上級貴族や中級貴族からのやっかみもあった。
 レイクは意に介すことなく、努力を続けていった。
 ひたむきなるレイクにとって、嫉妬ややっかみなどは、単なるノイズにすぎなかった。

 そして十五歳になる年。待望の日がやってきた。
 緑の芝生が心地よい、公園めいた庭。
 集められた生徒の前で、長い黒髪が美しい教官が言った。

「一年のあいだ、よくがんばった! キミたち念願の、召喚の儀へと入る!」

 教官の言葉に、みんながわずかにざわめいた。
 期待と不安のざわめきだ。

「が――その前に、魔装使いがどれほどの力を持っているのか。
 このアリア=ランスロットが改めて見せよう!」

 教官――アリアは指を鳴らした。
 ライフル銃を持った兵士が八人でてくる。

「彼らが持っている武器は『ライフル』と言う!
 十五年前に起きた事故により、『地球』という星から流れついたアースアーティファクトだ!」

 兵たちが、大木に向かってライフルを放つ。
 半径三〇センチを超える幹を持つ大木は、無数の穴をあけてへし折れた。

「ライフルの攻撃値は、一本あたり四〇〇前後。レベル八〇の上級魔法使いが放つ、フレイムランスにも匹敵する破壊力だな」

 アリアの言葉に生徒はざわめく。
 ここにいる生徒のレベルは、平均して二〇前後だ。
 地球からの流入物であるアースアーティファクトは、努力もなしに自身のレベルを四倍したのと同じだけの力を手にできるのである。

 ちなみにレベルとは、能力の可視化だ。
 地球でも、重量上げや一〇〇メートル走でパワーやスピードを可視化することはできた。
 この世界――ファーミリアでは、魔法的な技術で高度かつ正確に見抜くことができる。
 八本のライフルが、ひとりのアリアに向けられた。

「それではゆくぞ、フォルク!」

 アリアはふところからクリスタルを取りだし、パートナーを召還した。
 四枚の羽と白い甲冑。目元を隠すほどの鉄兜が印象的な、壮年の天使族だ。
 顔はほとんど見えないが、わずかに見える鼻筋と口元から、衆目美麗であることは推測できる。

 パートナーをどうするかは、人それぞれだ。
 常にそばに置いている者がいれば、専用のクリスタルに入ってもらっている者もいる。
 基本的には、パートナーの好みに合わせる。
 フォルクは、クリスタルに入っているほうが気楽というタイプであった。

 アリアは、腕輪をかざして叫んだ。

「血で結ばれし盟約の元に叫ぶ! 我と繋がれ、フォルク!」

 腕輪から流れた光りが、ふたりの姿を覆い隠した。
 四枚の羽に白い装甲に、銀色の兜を着けた黒髪の麗人が現れる。
 今のレベルは測定不能。

「さぁ、放て!」

 声に従い、轟音が響いた。
 八発の銃弾が、空を切り裂きアリアに向かう。

「ハアッ!」

 アリアが一振り、剣を薙いだ。
 剣圧によって波紋が生まれ、ライフル弾の速度がゆるむ。
 アリアは鋭く羽を広げた。タンと地を蹴り宙を舞う。

 二射目がきた。
 アリア、目にも止まらぬ速さでかわす。
 歓声が沸いた。

 空を飛ぶのは難しい。
 浮遊だけなら、風魔法に適正があれば誰にでもできる。
 しかし機敏な動きとなると、才能のある者が十年近くに渡って修行する必要がある。

 その間、ほかのスキルは疎かにならざるを得ない。
 それが飛空系のモンスターと魔装化すれば、一瞬で飛べるようになる。

 新しい武器がきた。
 アースアーティファクトのガトリングガンだ。
 無数に放たれる弾丸を、アリアは剣閃で弾く。

 攻撃は止まらない。
 学園の奥から、キュラキュラキュラと音がする。

 戦車だ。
 アースアーティファクトの中でも、S級ランクと言われる破壊兵器。

 爆音が鳴った。
 秒速一五〇〇メートルとも言われている砲弾が、アリアへと突き進む。

 しかし魔装化しているアリアには、スローモーションのように映る。
 剣を横なぎ、一刀両断。
 ふたつに分かれた砲弾は、遥か後方で炸裂した。
 アリアはパチリと剣を収めて、魔装化を解いた。
 それと同時に、体がよろける。

「むっ……」
「教官!」
「いや、平気だ」

 アリアは補佐官を手で制す。

「とまぁ……このように、力はすごいが反動もあるのが魔装だ。
 最初の一年は魔装を使わない訓練をしてもらっていたのも、そういうことだ。
 場の状況と相手の強さを考えた上で使うのだぞ?
 そうすれば、わたしのようになれる可能性もある」

 生徒のひとりが、おずおずと手をあげた。

「戦車に砲弾を撃たれても、ダメージを受けないってことですか……?」
「それは魔装化の相手とランクにもよるな。
 スピードタイプや魔術士タイプであれば、エリートランク以上はないと厳しい。
 逆にゴーレムタイプのモンスターの魔装化であれば、もっとも多い一般兵――ソルジャーランクでも充分に耐えれる」

「「「おおっ……」」」

 生徒たちはざわついた。

「それでは諸君らには、『血盟契約』と呼ばれる儀式をやってもらう!
 己が血を媒介にして魔界にアクセスを繋いで召喚するこの儀は、一生に一度しか使えん!」

 つまり今日の儀式で、一生の相棒が決まる。
 レイクの心臓も高鳴った。

 あとすこし。
 ほんの十分か二十分後には、自分も魔装召喚士としての第一歩を踏みだせる。
 今日この瞬間のために、今までずっとがんばってきたのだ。
 落ち着いていられるはずがない。

「召喚されるモンスターのランクは、召喚者の魂に呼応した存在と言われている!
 そして魂の強いものは、単純な力も強い!
 みなのここまでの努力と才が、如実に反応されるわけだな!」

 アリアはうなずき、庭に魔法陣を書いた。

「それではまず――アーリィ=アリオット」
「はい!」

 赤い髪にポニーテールがよく似合う、小柄な少女が魔法陣の前に立つ。

「まずはこのクリスタルがついた腕輪をはめて、自身の魂を注ぎ込むのだ。
 それから魔法陣にクリスタルを向ければ、キミに見合ったパートナーが表れてくる」
「はっ、はい!」

 少女は静かに腕輪をはめた。
 心を落ち着けてかざす。

「強き者、わたしに応じて! サーヴァント・サモン!!」

 クリスタルが光り輝き、魔法陣に光を灯(とも)す。
 現れたのは小さなウルフ。
 燃え盛るような赤い体毛を持った、フレイムウルフの子どもであった。

「なかなかの当たりだな」

 教官が言うと、アーリィと呼ばれた少女はウルフの前にかがみこんだ。

「特技とか……使える?」
「わんっ!」

 子犬のように小さなウルフは、口からぼうっと火を吐(は)いた。
 火力は子犬相応であるが、なかなかに感動だ。
 大人になれば、大木も軽く燃やせそうだ。

「よろしくねぇ~。えへへぇ~~~」
「くぅん♥」

 アーリィが、ウルフを抱いて頭を撫でる。
 ウルフはブンブン尻尾(しっぽ)を振った。
 その後も順に、モンスターが召喚されていく。

 熊のような大きさと立ち方をしているカブトムシ型のモンスターに、赤い人魂のようなウィルオーウィスプ。
 体長六〇センチぐらいの巨大イソギンチャクがいれば、デスピラニアという水棲モンスターもいた。

 が――。

(ピチピチピチ。)
(ピチピチピチ。)

 いきなり死にかけていた。

「うわぁぁぁ! クリエイトウォーター! クリエイトウォーター!
 クリエイトウォーターーーーーーーーーーー!!!」

 召喚した少年は、水魔法を使いまくった。
 タライが迅速に運ばれて、ピラニアはことなきを得た。

 シャベル型のモンスターもいた。
 見た目は小さなシャベルだが、目と口がついていた。

『よろしくな、相棒! ふたりでいっしょに、男になろうぜ!』
『アタシは女だぁ!』

 笑いが起きた。
 教官もうなずく。

「しゃべる剣がいるならば、しゃべるシャベルがいるのも当然であろう」

 なにが当然なのかはよくわからないが、そういうモンスターもいるわけだ。
 レイクの番がきた。
 一番成績のよかったレイクは、特別に大トリだ。

「召喚の儀で呼ばれるモンスターは、基本的には召喚者の力量に比例する。
 学園始まって以来の首席合格者であるレイク=アベルスの召喚獣は、わたしにも想像がつかん」

 教官が、生徒全員を下がらせる。
 さらにほかの教官四人が、魔法陣を囲んだ。
 臨戦態勢である。
 それだけレイクが、すさまじいという判断だ。

 レイクはグー、パーと手を動かした。
 緊張めいた武者震いを感じつつ、手のひらをかざす。
 なるのだ。
 自分もあの人と同じ、強くてかっこいい魔装召喚士に!

「強き者よ、我に応じろ! サーヴァント・サモン!!」

 風がぶわりと舞いあがる。

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