伴奏曲 6
立つこともままならない衰弱しきった安藤は神父のところに青年に連れていかれた。手振り身振りのジェスチャーの安藤に神父はにこやかに「日本語わかりますよ」と言った。
あずさの影響で日本語がこの島に浸透している。
年老いた日本人夫婦がいる。そこでしばらく「静養するといいでしょう」神父は安藤を老夫婦に紹介してくれた。
老夫婦は安藤にとても親切だ。この地が「最果ての地」と言われたとき安藤は意味もなく納得してしまった。
なにが「食べたいか」老夫婦に聞かれ安藤は思わず「カツ丼と味噌汁」とつい言ってしまった。
畜産に豊かではないこの島で肉を食べられるのは限られた上流階級のみ。
量産しやすいチーズはなんとか入手しようとすればできないことはないが日本円で100円としたらこの国では軽々と一万円はする。
それでも安いほうだ。
なにも知らない安藤は日本人が主食としてる米ではなかったがタイ米のようなものであっても出されたカツ丼と味噌汁に安藤は小躍りさえみせた。
飢えと乾きに干上がった安藤は差し出された水を一気に飲み干す。味噌汁までをも一気に飲み干した。
葱に似た香味に安藤は唸る。
老夫婦の生活を安藤は取材とばかりに聞きたいが食べるのに忙しい。
お袋の味ではなかったがとても懐かしい味に今までの旅が咽ぶ涙となれば大きな喜びとすらなる。
安藤を感動させたのが梅干だ。嫌いではなかったが敢えて食べるものでもなかった。弁当に必ずといっていいほど漬物があるが安藤は食べることをしなかった。
しかし日本米と似た米と梅干に味噌汁までもがある。
老夫婦は少々厚かましいのではないかと思う安藤の見事な食べっぷりを息子の面影と重ねていた。
可愛い孫にも会わせてもらえない。息子が来たと思ったら「金」だ。
日本を離れることを悩んだ老夫婦であった。しかし息子達と若かりし頃、過ごしたこの島で最期を迎えることを老夫婦はついに決めた。
この島に来るのに安藤のように苦心するわけではないが直行便があるわけではない。