伴奏曲 4
日本語も母親は教えてくれた。
絵本を日本の実家から母親が送ってもらう。いったい送料だけでいくらかかるのだろうか。
届いたら運がいいともいえた。
◆
電話もなにもないこの島に来るのは本当に奇跡としかいえない。
今でもこの島には電話がない。携帯電話も使えない。この島の島民はあずさの教えを頑なに守り続けている。
まさにあずさは神話にふさわしい女神だ。
すべてを統治したあずさはさぞかし神々しかったであろう。
この島の主は神父だ。
なぜ神父なのかが安藤にはわからない。
どこか民主主義な投票みたいなものなのだろうか。
日本人であったあずさだと考えたら民主主義でも可笑しくないと安藤は考える。
見事に統治したすべてはこの島ばかりでなくボートを出す島にすら行き渡っている。
生々しい処刑などここにはない。
あるとしたらこの島からの追放。
取り締まる警察もなければ裁判所だってない。
あるとしたら学校だ。
マフィアがこの島を牛耳りそうでそれもない。
困ったことがあれば神父に相談をする。
上流階級社会は島民にそれなりの暮らしを与え続けている。
ここでの教育は思った以上にハイレベルだ。多少の諍いはあるが話し合いで解決しようとするのは、やはりあずさが日本人であったからであろう。
この島での学校を卒業したら爵位あるものに相談をしてこの島をでていくことはある。
しかし帰ってきてしまうことが多い。
貧困格差があるようでないこの島には競争意識は乏しい。
贅沢な暮らしもないが餓えに苦しむ生活もない。それが一番の贅沢だろう。
安藤は数え切れない漁船を乗り継いでこの島にやっとの思いで到着した。
この島を聞いたとき、パスポートとは違うパスポートが必要だと聞いて安藤は半信半疑であった。
ポルトガル語で書かれたメモ用紙の一文――。安藤はどこか担がれた気がした。
これが本当にパスポートなのか?! インターネットで調べても安藤はまったく意味がわからなかった。ようやく見つけた海外のHPに亜熱帯に多い野生種の花、日本でいうなら桜のようなものだろうか。
どこか狐につつまれた気がした。が、なにかが安藤を強く惹きよせた。
そしていざ、ここに来ようとすると交通がない以前にこの島に来ることができない。
ここまで高い旅費を使って来たのにやはり騙されたのか――――。安藤は大きく落胆をした。が、しかし「あずさ」と安藤が言い、ポルトガル語で書かれたメモ用紙の一文をみせるとじっと相手が安藤を訝るようにみた。
内戦が激しい国が多かったため、なかなか入国すらできないことが多かった。安藤はどれだけ大回りをしたことであろう。