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伴奏曲 3

 愛国心まではいかないが、あずさが当たり前に食べていた味噌汁やご飯がここにはない。
 メイドにガイドを通じて伝えれば、あずさが欲しいと思うものがもしかしたら出てくるかも知れない。
 それ以前にあずさはなぜ自分がここにいるのかがわからないでいた。
 辿る記憶は非情に血生臭い。
 ところどころあずさの記憶がすっぽりと抜け落ちている。
 頭に大怪我をしたからかも知れない。
 それでも日本の出来事とは思えない銃の乱射に逃げ惑う記憶があずさの中に確かにある。
 どこか人恋しいでいるあずさは退屈とは大きく違う。
 あずさは自分の記憶が間違いでなければ、いつ自分が殺されるかわからない。
 目を覚ましたあずさは想像もしていなかった異空間に入り込んでいた。
 こんなことが本当にあるのだろうか。?!
 蔑視したかのようなジェンの眼差し――――。あずさは懲りずに「日本語わかる?」問いかけ続ける。
 バックパッカーが行き倒れる国がインドだとしたらこの島はすべての時を止めてしまう。ジョンの母親は日本人だ。
 たまたま親しくなった漁師に連れられこの島をジョンの母親は訪れた。
 海原がいつからこの島を移住地としていたのはわからない。
 広いこの孤島はシンジケートから傭兵にとすべてを兼ね備えていた。
 商魂で訪れる船がここに停泊するのは難しい。
 浅瀬になっているこの島に入るには水平線の彼方に見えるスラム街からボートに乗り換えるしかない。
 外貨を得ることができなかった貧しい島がボートを頼む者達によって外貨を得る。
 少しずつ海原の恩恵が外貨を得ることができなかった貧しい島に恵みを齎しだしていた。
 しかしひととは醜い生き物だ。
 その外貨を独り占めしようと醜い争いが生まれだしていた。
 この貧しい島もまた地図に載っていない。
 その日の食べる量の魚を釣っていればよかった島民が裕福な島へと出ようとする。
 だが教育を受けていない独自の島の文化で他国へ出たところで成功などしない。
 いいように勝ち得た外貨をまんまと騙し取られ、泣く泣く故郷である島に帰ろうにも報復がなによりも恐ろしい。
 その末路はさぞかし哀れなことであろう。

 もしかしたらと小首を傾げるあずさはジョンにさらに話しかける。
「どけよ」
 今にもあずさを突き放しかねないジョンをみていると、もしかしたら日本語がわかるのかも知れない。
 ジョンは懐かしいなと、あずさを無視しながら母親が歌い聞かせてくれた日本の童謡を思い出していた。

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