天海文書
「この『天海文書』があったから、俺はイエズス会と戦えました」
坂本龍馬はほろ酔い気分になりながら、着物の懐からボロボロの冊子を取り出した。
安土城地下要塞の信長の茶室から、少し広めの部屋に移動して酒宴となっていた。
アンドロイドのステラがお酒の酌をしてくれていた。
「おお、わしが書いた文書の写本じゃな」
天海は懐かしそうに目を細めて冊子をめくった。
「ちょっと、僕にも見せてください」
メガネが写本を天海から取り上げて読み始める。
そこにはメガネたちや信長の戦国時代での苦闘が子細漏らさず描かれていた。
「天海さん、これ、話を盛りすぎでしょ? こんなエピソードあったっけ?」
メガネは不審げに天海を見つめた。
「メガネ君が忘れてるだけで、克明に書いてるんだけどな」
天海こと、明智光秀は真面目なのか、ふざけてるのか、なかなか見分けにくい男だった。
そこが信長の勘生を被った原因だったのかもしれない。基本、生真面目な男なのだろう。
「坂本とやら、お主は最後にイエズス会を出し抜いたそうだな?」
信長が興味深そうに訊いてきた。
「はい、お陰で近江屋で暗殺されかけましたが、安部清明さまに助けて頂いて生きながらえました」
龍馬は何とも人懐っこい表情でにこりと笑う。
「そうか、わしと同じじゃな。清明殿もなかなか暗躍しておるな」
「清明殿によれば、本業が陰謀で趣味は暗躍だそうです」
「わはっはっは。それは清明殿らしいな」
信長は上機嫌でしばらく宴は和やかに続いた。