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序章 2

 眼を凝らすと『ウルフガング・リガルディ』の背中には、4枚の蝙蝠みたいな翅が生えており、その翅はゆっくり息をしている様に動いている。
 眼光で僕を殺せるのなら、今すぐにでも射(い)殺(ころ)したい様な勢いでこちらを睨み付けるヤツの顔のすぐ下には醜悪に越え太った肢体が釣る下がっている。何を食べてあんなにデブになったのか? 悪魔は生まれつきデブの遺伝子でも持っているのか? ダイエットしろっての、世界を闇に変えている暇あったらな!!

 此処に到達するまで、俺は数え切れない苦難と危機を切り抜けて来た。だから眼の前の悪魔が予想もしない卑劣な不意打ちを仕掛けて来ようともそう簡単には喰れたり、やられたりしない自信はある。
 これまでに強大な魔物と幾度となく死闘を演じた事はあったからだ。 そうして俺は戦いの中で血が滲んだ経験値を掴み取って来た。振り返れば、辛く厳しく凄惨な戦いの日々の繰り返しだった。

 僕は『ウルフガング・リガルディ』を挑発する様に、不敵な薄笑いを唇元に浮かべた。
「来いよリガルディさんよ…………僕を食べるのか、永遠の闇の中に封印するのか、それとも虫けらにでも変えてくれるのかい……やれるものならやってみなって。正面切って受けて立つグラン!!」
 僕はこの谷に入る直前、全身に魔除けの結界結晶を牽いている。いかな上級悪魔と言えど、今この僕に魔法の直接攻撃は不可能だ。それでも時間を掛けて繰り返し俺を取り巻く結界結晶の一点を集中攻撃されれば、肉体にダメージを到達させられなくもない。ただそれまで僕がぼやっと魔法干渉攻撃を受け続けていればと言う話だ。
 
 僕はそんな迂闊な防御態勢を取ったりはしない。此処まで到達出来た事がまさにその証だ。俺の挑発にやっと答える気になったのか、奴が呟いた。
「私と対等に戦うつもりなのか……見ると君は確かに大層立派な装備を持っているようだ。さぞかし魔族との戦闘経験も豊富そうだが……それだけでは私は倒せない。
今まで私の前まで到達した人属の誰も私を倒せなかったからだ。それこそが君達人属の無力の証だよ。見ると、可哀そうに体のあちこちを痛めつけられている様じゃないか。もう立っているのもなんじゃないのかぁ?」
 言葉使いは持って回って厳かだが、明かに俺を威嚇しようとしている。裏を返せばそんな事をわざわざ聞いて来るっていうのは、ヤツは自分の内面の動揺を隠そうとしているんじゃないのか……。
「それじゃあお前を倒す人属の記念すべき一人目にさせていただきましょうか、このグラントがね」
「それはそれは……私に面と向かって減らず口が叩けるだけでも、君の蛮勇は賞讃に価すると思うね。さぞや剣の腕も立つんだろうね」

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