バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

序章 4

序章 4
「…………大打さん、今日の私の事どこかから見てたんですかぁ?」
 大打の口元がニヤリと動いた。
「どうやら図星のようだな……」
「買い物行って、買った紙袋落しちゃったところは合ってます。スゴいですね!
 でも私、給料全額使い切ったとか、カードまで使って買い物したとかはありません。道に迷った老人を誘導しようとして、自分の手荷物から注意が離れてしまって……それで」
「言い訳はいい! 結果が大切なんだ。その結果おまえは無限軌道を描く遊星のように、駅と店の間を……」

「さまよい続けてました! その通りです!」

「やっと白状したか、手間を掛けさせやがる。俺はこの道のプロだぞ。情けの大さん、かつ丼の大打と言えば、ちょっとは所轄では知られた刑事だ。覚えとけ」
「私の行動……そこまで言われる事なんですか?」
「現におまえは現場に遅刻しているじゃないか? 俺の目の前には、無惨な遺体が転がってい
る。死後一千六百年程度は経過していると推定できるか……。
 このままにしておいたら、追っつけやってくる鑑識に運び出されちまうぞ。そうしたら残されたチョークの後だけで遺棄された死体の状態の推理ゲームの始まりだ。それで良いのか、桜木!」

「私、遺体の前にいます。
 死後5、6時間が経過していると推定される女性の死体です。
鑑識は来ていますが、我々の確認を待って死体の移送に移る手配です。大打さん、失礼ですが何処の死体を見ているんですか?」
「通報のあった港町大学考古学研究室の発掘遺跡研究室の遺体だよ」
 大打の返答に、やっぱりとばかりに優美子は答えた。
「通報のあった現場は、考古学研究室の発掘現場ですよ。大学の学内研究室じゃありません」
「しかしここに死体がな……」

「そちらにいらっしゃるのは、推定死後一千六百年経過している死体ですよね。それは今回の捜査対象の遺体ではありません。国籍もおそらくエジプトあたりの高貴な方ですよね」
「知らん。おまえも知ったかぶりはよせ。今日はおまえに任せる、日が悪いようだ。俺は帰る。ああっせっかく携帯の電源を切って、滅多に出ないパチンコで確変を引いて日頃の負け分をやっと取り返せそうになっていたのを。
心無い小娘にうるさく携帯を鳴らされ、伝言を聞いて、仕方なく勝ちの勝負を泣く泣く断念して、刑事としての職務に忠実に現場に急行したのにな。この言われようは一体何なんだ。何様のつもりだ、見習い刑事が先輩に言うセリフか」
「私、あのぅ、お気に障る言い方しましたか。すみません」
「初めから現場検証は桜木おまえ一人に任せれば良かった。これこそ下らん手間仕事だ。
例えればだ、上司がトイレに入ったら、うんこを流すのは見習いの部下の仕事だろうが、違うか!!」
「違います。それは生理現象で、部下の仕事じゃありません」
「わかってる。物の例えだ」

しおり