奇妙な女生徒、現る
8日目になった。
そろそろ未来人から連絡が来ても良さそうだ、と何の根拠もなく期待して学校に行った。
朝礼の時にカオル先生から、日直は職員室に行ってクラス全員分の音楽ノートを持ってくるように、と頼まれた。
今日の日直は、俺ともう一人の女生徒だった。
朝礼が終わってそいつの席に行くと、いない。
見渡すと、いつの間にか教室から煙のように消えていた。
(やられたぜ)
ここにも面倒臭がり屋がいたか。仕方なく俺一人で行くことにした。
職員室で音楽の教師から音楽ノートを受け取り、一礼して職員室を出た。
何か廊下が騒々しい。
来た廊下を戻ると騒ぎ声が大きくなる。
角を曲がると、向こうの方で取っ組み合いの喧嘩が始まっていた。
血の気の多い奴らがたくさんいるのは知っていて、こういう事件が珍しくないことは分かっていた。
しかし、通り道なのに邪魔であるし、こちらにぶつかってこられると困るので、いつもは通らないルートを通ることにした。
職員室に戻って逆方向の廊下を渡り、突き当たりの階段を上る。
ここは、初めての道なので新鮮だった。
階段の下から見上げると、踊り場の上の窓から暖かな日差しが差し込んでいた。
それを見ながら踊り場に辿り着き、右横に曲がって次の階段を上ろうとしたその瞬間、ギョッとした。
階段の真ん中で膝を抱え、膝頭に額を置いて座っている女生徒がいる。
危うくぶつかりそうになったので、すぐに後ろに下がった。
彼女は俺に気づいて顔を上げた。
顔を見ると面長で西洋人のような顔立ちをしていて、黄色く染めた美しく長い髪が階段まで垂れている。
蝋人形のように肌がすべすべしていて白いので、マネキンに見えた。
女生徒のマネキンが階段の途中で膝を抱えてチョコンと座っているのである。
いやいや、動いているので、正真正銘、生きている人間である。
「あのー、そこに座られると困るんだけど」
ぶっきらぼうに言うと、彼女は悲しそうな目でこちらを見て、不思議なことを言い出した。
「紙、ない?」
(紙?)
一瞬、彼女の座り込んだ姿勢からトイレットペーパーを連想した。
(紙なら、トイレに行けば)と思ったが、その言葉を飲み込んだ。
「何の紙?」
彼女は、ふぅとため息をつく。
「何でもいいんだけど」
「何に使うの?」俺は切り返した。
その時、彼女は俺が手にしていた音楽ノートの山をジロジロ見て、おねだりするような声で言う。
「それ、欲しいなぁ」
(図々しい奴だ)「いやいや、これはうちのクラス全員の音楽ノートだから」と言い返す俺の言葉を聞き終わらないうちに、彼女は「音楽!?」と小さく叫んで、ゆっくりとニコッと笑う。
「何?」
「それ、ちょうーだい!!」
彼女は、バネ仕掛けのようにシュッと両手を突き出した。
(こいつ一体、何者なんだ?)
音楽ノートを捕られまいと一歩後ろに下がり、ニコッと笑った彼女の顔を睨み付けた。