1 物語はクラスごと異世界召喚からはじまった。
カラーン、カラーン、カラーン!!
大きな音とともに鐘が鳴らされ、俺、
「おめでとうございます!!あなただけが勇者だと鑑定されました!!おめでとうございます!!」
自分のの目の前で自分達を呼び出した絶世の美女・『聖女・アリーナ』が大喜びで達則に抱き付かんばかりの勢いだ。
クラスのみんなからは呆然とした、あるいは嫉妬の厳しい視線を向けられ、アリーナを始め自分達を召喚した王室関係者からは期待に満ちた視線を向けられ、俺は慌てた。
(いったい、どうしてこうなった?!)
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
俺たちの通う某県の西行寺高校は偏差値的には中の上に位置する普通の公立校だ。
俺は2年B組の帰宅部で、成績も運動神経も中くらいのフツメンの目だたない生徒だ。
だから、学校では趣味の合う友人が数人いるくらいで、クラス内では空気に近い存在だ。もちろん、彼女なんかいやしない。
今日は補習があったので、夕方になって家に帰ると、母と明日香が一緒に仲良く夕食を作っていることろだった。
明日香は隣の家に住む俺の一つ下の幼馴染で、今は一人暮らしなので朝食と夕食を我が家で一緒に取るようになっている。
俺を兄のように慕ってくれているハーフの超絶美少女で、ここ1年くらいでどんどん大人っぽくなっているので、無邪気に抱き付いてくれたりすると、正直手を出してしまいそうで、本当に心臓に悪い。
その度に『お前は兄だ!お前は兄だ!』と言い聞かせることで、何とか理性を保っている。
最近ではガス代を浮かせるためと我が家で風呂に入って帰るので、理性と欲望を懸命に闘わせる毎日だ。
父と母は『明日香ちゃん、いつでもうちにお嫁にきてくれていいんだよ(いいのよ)』なんて言っているけど、俺の身にもなってくれ!
ただでさえ崩壊しそうな理性の壁がさらにヤバいことになっているのに!
明日香は想像を絶するくらいすごい人見知りなので、学校には通っていないのだ。
その代り1年前までは二人暮らしの祖母から個人教授を受けていたようで、現在大検の資格までは取っているそうだ。
だから、俺になついてくれているのは安心できる数少ない幼馴染の兄のような存在だからであって、残念ながら恋人のような関係は期待できないと思う。
今晩も宿題のわからないところなどを明日香に見てもらっている。
大検の資格を取ったと聞いて、勉強のことを聞いてみると、俺よりずっと勉強ができることが分かったのだ。
小さいころから繊細で動物たちには非常に優しかった明日香は俺が宿題で困っていることを知るとすぐに親切なことに手伝ってくれると言ってくれた。
小顔でスレンダーな美女…そう、すでに明日香は美女と言っていい!その美女の明日香に勉強を教えてもらっていると時々理性が吹き飛びそうになる。
しかし、俺が変なことをして、俺すら信頼できなくなってしまったら明日香の居場所はどこにもなくなってしまう!
頑張れ!達則!おのれの意志を総動員して理性を保つのだ!!
今朝も明日香と母に見送られて登校していった。
そして、ホームルームが始まる直前、クラスが大きな振動に襲われ、周りの風景がぼやけていった。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
気が付くと俺たちは大きな広間のような場所にいた。
そして、俺たちの前には一人のものすごい美女と、その後ろにいくつもの鎧をまとった騎士のような人影と、豪華な衣装を着た男たちが何人もいた。
「異世界からの召喚に成功しました!!」
目の前のきれいな女性、俺たちと同じくらいの年齢に見える俺と同じくらいの長身のグラマラスな美女は大喜びしている。
「これは一体どういうことでしょうか?」
我を取り戻したらしいクラス委員長の速水が口を開く。
成績も運動神経もトップクラスのイケメンで、文字通りクラスのリーダーである。
「これは失礼しました。急に皆様をお呼び立てすることになって申し訳ございません。
私はこの国の第1王女アリーナと申します。
実はこの国が…。」
アリーナ王女がそこまで言ったとき、うっと咽ると、口から大量の血を吐きだした。
「「「「うわーーーー!!!」」」」
それを見ていたクラスメートは大騒ぎになり、アリーナ王女は…何やら呪文を唱えると、青くなった顔色が元に戻り、大きなため息をついた。
「お見苦しいものをお目にかけて申し訳ありません。召喚の魔法で体力を消耗し、吐血してしまいました。でも、ご安心ください。私自身が癒し手でもあるので、これくらいなら一瞬で治せますので。」
「そ…そうですか…。」
口元にまだ血が付きながらもニコニコしているアリーナ王女に速水は何とか返事を返すだけで精いっぱいのようだ。
数分後、床の掃除も終わり、着替え終えたアリーナ王女が戻ってきて話が再開された。
アリーナ姫の吐血時に王室関係者がほとんど騒がなかったこと、掃除に携わったらしい侍女たちの手際がやたらいいことから、もしかしてアリーナ王女の吐血は日常茶飯事かもしれないと感じる。
「ここ数か月魔王軍六魔将配下の魔物たちの動きが活発し、我がロジック王国含む近隣諸国は大きなダメージを受けているのです。
それに対応しようと神託を伺ったところ、何もしなければ人間の王国は全て魔族の支配下に置かれるとわかったのです。
魔王六魔将たちは非常に強く、彼らに対抗するほどの強者はこの近隣の国々には存在しないのです。
そこでやむなく異世界勇者召喚の秘法を敢行し、勇者の素質のあると思われるあなたたちを召喚させていただいたのです。」
「わかりました!ご協力させていただきます!!魔王軍は我々の手で撃退して御覧に入れましょう!」
ええええ??!!!速水、相手が話の途中でそんなことを勝手に決めるなよ!!
確かにアリーナ王女は誠実そうだし、周りの王族、貴族?や騎士の人達も優しそうな雰囲気で誠実そうだけれど、ちゃんと話を聞いてからにしようよ!
「あ、いえ。お気持ちはとてもありがたいのですが、まずは一通りお話させていただきますね。その上で、ご協力されたい方だけご協力していただければ結構ですので。
能力的に、あるいは御意志の上でご協力がお難しい場合は『送還の準備』を進めて、先に元の世界に戻っていただきますので、ご安心ください。」
アリーナ王女がニコニコしながら説明してくれるのを聞いて、クラスメイト達、特に女子たちの顔が安心したものに変わっていく。
「異世界から素質のある方たちを召喚した場合、潜在意識下で危機感を覚え、潜在能力が大きく引き出され、戦闘能力や魔法等の力が目覚めることが多いと聞きます。
今回は『勇者と言えるくらい素質のある人達』がいる可能性が高いグループを召喚する魔法を使いました。」
アリーナ王女の言葉にクラスメイト達が大いにどよめく。
「今からお一人お一人、『鑑定』の魔法を掛けさせていただきます。皆様のプライバシーを暴くようで申し訳ないのですが、ご協力をお願いします。」
アリーナ王女の一生懸命で丁寧な態度に速水を始めとする、クラスメイト達は素直に列を作って鑑定を待った。
「最初はハヤミさんからですね。では、鑑定!!
私とハヤミさんに鑑定結果が見えると思います。
ハヤミさんは……おおっ!!計算能力と記憶力がものすごく増大しています!
もし、よろしかったら国の非常時で業務官僚の仕事がいっぱいいっぱいなので、お手伝いしていただけると非常に助かります!」
ニコニコしながらアリーナ王女が告げ、速水は固まった。
「…あの、勇者とか、魔法とか、剣とか…。」
「…ええと、運動能力と魔力に関しては転移後に変化はないようです。とはいえ、元の技能と合わせると業務能力の高さはとてもすごいですね。業務官僚の件、もちろん正規のお給料をお支払いさせていただきますので、ぜひお考えください。」
本来ハズレのはずなのに、アリーナ王女は速水に対する気遣いと尊敬する態度を忘れずに対応されている。
周りの王室関係者の雰囲気もちょっとだけがっかり感はあるものの、視線が冷たくなったとかいう感じはしない。
ライトノベルで流行のように『召喚者を冷遇』することはなさそうだと俺は安どした。
アリーナ王女は僕たちを次々と鑑定していき、みんなにそれなりのチート能力が開花していることが判明した。
しかし、戦闘向きと言えるのは二人だけだった。
女子剣道部部長の宮城が『剣士レベル一〇』で、俺のゲーム仲間長谷部が『魔法使いレベル五』だ。宮城はまだしも、長谷部は『ゲーム中の魔法』が使えるというのだから、ある意味すごい。
それでも王国最強剣士の騎士長ギルバートさんが剣士レベル四〇で、宮廷魔術師のイワノフ老師が魔術師レベル五〇なので、召喚されたメンバーでは魔王軍六魔将とはとても戦えそうにもない。
王室の方たちは明らかにがっかりされながらも、俺たちに対して、丁寧に対応されようとしてる。
そして、ついに最後の一人…俺の鑑定の番になった。
アリーナ王女は俺に鑑定の魔法をかけると、驚きに目を見開いた。
カラーン、カラーン、カラーン!!
大きな音とともに鐘が鳴らされ、俺の上のくす玉が割れて、アリーナ王女が叫んだ。
「おめでとうございます!!あなただけが勇者だと鑑定されました!!おめでとうございます!!」
アリーナ王女は感極まって滂沱の涙を流されている。
王室関係者はアリーナ王女同様みんなで抱き合うようにして喜び合っている。
クラスメイト達は半分くらいが呆然となり、半分くらい、特に速水が僕を嫉妬の目線で睨んでいる。
「タツノリ様!あなたは『召喚の勇者』の技能をお持ちです。
あなたがいろいろなご経験を積まれると、強力な他の勇者をさらに召喚することができるようになるのです。
現在は…召喚獣の勇者…召喚獣も勇者扱いなのですね…しか召喚できないようですが、他にも『魔道の勇者』『癒しの勇者』『闇の勇者』『殲滅の勇者』『巨大勇者』が将来的に呼べるようになるようです。
次に呼べるようになるのは…あれ?魔道の勇者が強力そうな割には召喚ポイントをあまり必要としないようです。しかも、なぜか魔道の勇者の召喚ポイントが少しずつ減ってきてますね。もしかして達則様と魔道の勇者の親和性が高いのかもしれません。」
アリーナ姫に言われて召喚技能を確かめてみる。
なぜか空間に画像が浮かび、そこに文字が浮かび上がる。
ラノベとかでいうステータス技能のようだ。
画面に『召喚獣の勇者』『魔道の勇者』『癒しの勇者』『闇の勇者』『殲滅の勇者』『巨大勇者』と文字と共にSDキャラの画像が出ており、『召喚獣の勇者』の下にはピ◎チュウに似たウサギのようなかわいいモンスター、『魔道の勇者』の下には魔女風のキャラが、『癒しの勇者』の下には聖女風のキャラ、『闇の勇者』の下には魔剣士風のキャラ、『殲滅の勇者』の下には中華風の戦士のキャラが、『巨大勇者』の下にはゴーレム風のキャラがそれぞれ出ていた。
現在の僕の召喚ポイントは五〇ポイントで、『召喚獣の勇者』が五〇ポイント、『魔道の勇者』一五〇〇ポイント…から少しずつ減って、今は一四五〇ポイントだ。『癒しの勇者』が一五〇〇ポイント、『闇の勇者』が二〇〇〇ポイント、『殲滅の勇者』二五〇〇ポイント、『巨大勇者』が三〇〇〇ポイントになっている。
今呼べるのはウサギの召喚獣…ううむ、◎カチュウも召喚し始めた時は弱かったのだよね。
とは言え、勇者というくらいだから鍛えれば強くなってくれそうだ。
それと、魔道の勇者の召喚ポイントが今も減り続けてくれているのはありがたい。遠からず強力な魔法を使う勇者が仲間になってくれるのだね。
「達則様!今神託が降りました!!七人の勇者を集めて行動すれば必ずは世界の闇を晴らすことができると!!達則様!どうかよろしくお願いします!!」
俺がステータスを確認していた時、アリーナ王女には神託が降りていたようだ。
アリーナ王女はなんと、俺に土下座して頼んできた。
「王女様、待ってください!もちろん、喜んで協力させていただきます!王国が滅びたりしたら俺たちも元の世界に戻れないんでしょ?」
俺が慌てて叫ぶと、アリーナ王女はぱっと顔を上げて満面の笑顔になった。
「本当ですか!ありがとうございます!これで世界は救われます!」
「ふっふっふ、それはどうかな?」
突然、男の怪しい声がし、禍々しい気配が広間に広がっていった。
そして、シャンデリアの上に真っ黒な人影が浮かんでくると、ふわりと俺たちの前に舞い降りた。
「王国が勇者召喚をすると聞いて、監視して正解だった。
俺は魔王軍六魔将が一、獣魔将ライガー旗下三銃士の一人、タランテラだ!勇者が育ちきる前に俺が始末してやろう!」
六本の腕のそれぞれに剣を持つ漆黒の剣士が俺を見てにやりと笑っている。
「そうはいくか!!」
一際大きい、騎士の一人(後でわかったのだが、騎士団長ギルバートさん)がタランテラに抜刀して突っこんでいくが、簡単に弾き飛ばされてしまった。
「はっはっはっは、たわいのないものだ!次はお前だ!それと…王室もきれいに掃除した方がよさそうだな…。」
タランテラの言葉と同時にタランテラの懐から一回り小さな漆黒の剣士たち十名以上が姿を現していった。
今の俺にできるのは勇者を召喚することくらい…でも、ウサギの召喚獣を呼んで、果たして何とかなるのか?!いや、それでもクラスメイトや王女たちを守るためには呼ぶしかない!俺は頭の中で『召喚!』と叫んだ。
俺が叫ぶと同時に眼前にまばゆい光が現れた。
「ライピョン、元気だぴょん!!!」
イケメンボイスの叫びと共に俺の目の前に黄色がかったクリーム色の全身に黒っぽい稲妻模様の入った召喚獣……身長が二メートル近いやたらイケメンな細マッチョなんだけど…。
うさ耳の小さなかわいい尻尾の付いた細マッチョなイケメンの出現にタランテラやその手下だけでなく、クラスメイトや王室関係者も全て固まってしまった。
ライピョンと名乗った召喚獣は振り向いて僕を見て言った。
「召喚してくれたのは君だね。召喚されるとき、君の仲間を思う熱い心を感じさせてもらったよ。あとは私に任せたまえ!」
ライピョンは俺にサムズアップするとファイティングポーズを取った。
そして、我に返ったタランテラ達に素早く飛び込んでいった。
「稲妻旋風脚!!!」
ライピョンは頭から飛び込んだ後、手下たちを倒立状態の回し蹴りであっという間に吹き飛ばしていった。
「雷撃掌!!」
素早くタランテラの眼前に迫ると、掌底でタランテラを数メートル吹き飛ばしていった。
「止めだ!!空裂電磁砲!!!」
ライピョンが両手を合わせてエネルギーを集め、巨大な雷撃をタランテラに叩きつける。
「ぐわあああああ!!これまでか!!ライガー様万歳!!」
タランテラは電撃に耐え切れず吹き飛んでいった。
「ライピョンさん、ありがとう。」
俺は思わず召喚獣にさんを付けてお礼を言った。
「いや、当たり前のことをしたまでさ。また、君が『熱い心』で読んでくれれば私はいつでも現れる。近いうちにまた会おう!!」
叫ぶとライピョンさんは姿を消してしまった。
召喚獣の勇者…確かに『見た目がアレなことを除けば』強さも中身も勇者だった。
ライピョンさんの活躍のおかげで、七人そろえば何とか世界を救えるんじゃないかと思えてきた。
続く