祭りのあと、旅立ちのとき。
「なんとか約束どおり、妖精共のうちが出来たな」
ドールハウスの庭先の花壇の手直しをしている時にそう話かけてきたのはスネークだった。
スネークとはとある有名なゲームに出て来るキャラクターで伝説の傭兵と呼ばれる男。単身敵地に乗り込み数々のミッション、特に「核搭載歩行戦車」を見つけ出したり誘拐された政府要人達を救出したりした男・・・
・・・の、アクションフィギュア。
まあ、元々はホビーショップで売られているありきたりなフィギュアだったんだけどうちに妖精さんが現れてから不思議なことに話しかけてきたり酒飲んだりするようになってきたんだ。
いやいや、幻覚じゃないって!
そう言えばスネークに会ったのも久しぶりな気がする。
ここんところ色々と忙しくて。
仕事もそこそこ忙しかったけれど、途中作りかけで頓挫していたドールハウス作りにハッパかけていたのだ。
ある日うちにやって来たお掃除の妖精えるのさん。
20cmにも満たない小さな妖精がうちにやって来たのは去年の秋だった。
そんなの小さな妖精さんと織りなす日々の日常、非日常な出来事をツイッターで毎晩ちょこっとちょこっと書き記す事が日課になり、また居心地が良いのか仲間を呼んで3人の妖精さんがうちに。
箒の妖精、えるのさん。
モップの妖精でえるのさんの妹、りぷちゃん。
はたきの妖精でえるのさんのお姉さん、べるさん。
そんな彼女達のお部屋を作ってあげようと小学生の頃以来の工作で作り上げたのがえるのさん達の家。
最初は「部屋」っぽいの作っただけなんだけど彼女の喜ぶ顔見たらね、ついつい家まで作っちゃった。
「なんとか、ね。まだやらなきゃいけないところも一杯あるけどね。」
今年の夏。
7月の初めくらいか。
そう言えば、あの時・・・
「・・・ふう。」
どうしたん?こんな時間に?
作りかけのドールハウスの玄関先に紺色のロングドレスにレースのフリルが付いたエプロンという姿のえるのさんがいる。
ほんの1時間ほど前にあげた3人お揃いの浴衣とか、りぷーのウェディングドレス姿とか色々な衣装着てはしゃいでいたから、デフォルト衣装のメイド服で建築途中の家の前に佇んでいたのにびっくりした。
「お伝えしないほうが良いか悩みましたが、ちょっと何日かお仕事の応援に行かなきゃならなくなっちゃいました。」
お仕事って?どこに?
「『お掃除妖精』のお仕事です。守秘義務あるからさとーさんちの方、としかお伝えできません」
お掃除の妖精さんがなんでまたそんな物騒なモノを・・?
えるのさんの手にはアサルトライフル、M16A1にM203グレネードランチャーが付いたモデルが握られている。
セーラー服と機関銃っていう映画が有ったな、むかし。
物騒だな、戦争でも始まるのかしらん?
「帰ってきたらお願いがあるんですけど・・」
「ん?」
「えっと、やっぱり帰ってからでいいです。」
そっか。
うちに来たのも突然だったから、別れるのも突然なのかな?
もう会えなくなっちゃうのかな?
色々な考えが頭の中をぐるぐる回り出した。
「約束だよ。必ず帰ってくるって。」
指切りは出来ないからハイタッチ。
細かい話は話せないなら「どうして」に繋がる言葉を掛けないように私は言葉を選んだ。
そして、私はミニチュアのヘルメットを被せた。
・・・役に立つかわからないけど。
「良かったら使ってね。」
「ありがとうございます。」
そう言うと、一礼をして去っていくえるのさん。
3人の妖精達はその晩旅立って行ったようだ。さよなら言えたのはえるのさんだけだったけど。
がらん、と空いたドールハウス。
ベッドに脱がれた浴衣。
あの散らかった浴衣はりぷーのかな?
話しにくい事もあるんだろう。
話してくれる時が来たら話してくれるよね。
そう思いながらドールハウスが置かれた部屋の電気を消した。