5−3: あなたをこの手に
病室にノックが響いた。
テリーが見ると、イルヴィンは軽く目を閉じた。
「返事くらいできるだろ?」
椅子から立ち上がり、テリーはドアを開いた。エリーが立っていた。顔色は良いとは言えなかった。
「化粧くらい直して来たらどうだ?」
ドアの横に体をずらし、エリーを招き入れた。エリーは応えず、イルヴィンのベッドの横に立った。
「やぁ。瞼が腫れてるな。心配してくれたのは嬉しいけど」
「いいから。そんなことはいいから」
エリーは目を拭った。
「テリーの話は聞いたわ。さっき話していたことも」
端末をポケットから出し、イルヴィンに見せた。
「可能性は、もう知ってるよ」
ドアの横から椅子に戻ったテリーも、端末を見せた。
「俺が取り乱したこともな」
「いいのよ。むしろ嬉しかった。私の代わりに言ってくれてるみたいで」
エリーはまた目を拭った。
「あなたがどういう気持なのかも聞いてしまったけど」
「それは気にしないでくれ。俺の個人的な話だ」
テリーは答え、病室にある別の椅子を指差した。椅子をベッドのすぐ横に広げ、エリーは吸わり、イルヴィンの左手に自分の手を重ねた。
「まだ痺れていて、よくわからないな」
イルヴィンは笑っているのだとやっとわかる声を出した。
「俺はテリーほど割り切れてるわけじゃないんだ。もし俺がその何とかっていうものなら、確かめたい。方法は何かあるのかな」
「あなたはそんな何かじゃないわよ」
エリーは振り向いた。
「テリー、あなたも」
「ありがたいね。でも俺のことは気にしないでくれ。実際結構割り切れてるんだ。イルヴィンに言ったとおり、俺は俺だからな」
掌を振りながら答えた。
「だけど、イルヴィンが何なのかを確かめる方法なら、ないわけでもない」
エリーはテリーをしばらく凝視めた。
「そんなこと……」
「方法があるのか?」
イルヴィンの声でエリーは顔を戻した。
「あるわけないわ。会社の上層部なら見れる資料もあるかもしれないけど」
「あるぞ。とびきり簡単な方法が」
「あるわけないわ」
イルヴィンの左手を持ち上げ、エリーは額を、そして頬を寄せた。
「あるわけない……」
「そうか、わかっているんだな」
テリーは立ち上がり、ベッドの横に立った。
「どんな方法があるんだ? あるなら教えてくれ。試せるなら試してみたい」
「確認できる保証があるわけじゃない。もし、あんたが特別な "I.F." だとしてもな」
「お願い。もう言わないで」
エリーは右手でテリーを押し下げようとした。
「いや、聞きたいな」
「保証はない。ユニットの方の問題でしか、これは起きないのかもしれない」
「ユニットの方の?」
「あぁ」
「そうか、わかった。君が言いたいのは、つまり、この体を維持できなくなれば……」
「お願いだから、もう止めて」
エリーはまた両手をイルヴィンの左手に戻し、包んだ。
「止めろって言っても。わかってるはずだが、目の前にいるのは昨日までのイルヴィンじゃないのかもしれないぞ。それに、やるならエリー、あんたが…… いや、これはわかっていた方がいいのか? わからない方がいいのか?」
「だとしても、彼は彼よ」
エリーは涙を流していた。
「だとしても、」
イルヴィンは続けた。
「俺は知りたいな。ただ、もう少し穏やかな方法があれば、そっちの方がありがたいが」
テリーはイルヴィンの顔を覗き、体を屈めエリーの顔も覗いた。
「もう少し穏やかな方法か。あるかもしれない」
自分とエリーを指差して続けた。
「俺達以外の連中のやり方で」
エリーは首を振っていた。