4−2: キーボード
数分後、キーボードを載せたコンテナがイルヴィンたちの部屋にやって来た。
イルヴィンはそれを片手に持ち、目の前に掲げ、自分の机を見た。
「どこにコネクタがあるって?」
「あんたには権限があるってことは、あんたのディスプレイに繋げる方がいいんだろうな」
テリーはそう言いながらキーボードを掴み、イルヴィンの机のディスプレイに向かった。ディスプレイの側面とキーボードのコネクタを眺めた。
「ここだろうな。コネクタも合いそうだし、空いてるのもここだけだし」
キーボードのコネクタを右手に持ち、ディスプレイの側面に刺した。
「こっちに来て座れよ。もしかしたら、あんたの何かに反応して、あんたでないと入力できないかもしれない」
「何かって?」
そう言いながらイルヴィンは壁のディスプレイを見た。10枚の大型ディスプレイが示す状態は、そのすべてがブルー、グリーン、イエローの間を行き来している。まれにオレンジになることもあるが、およそすぐにイエロー以下の状態に戻った。
「誘電率とか静電容量とか? キートップが指紋を読むかもしれない」
テリーは椅子に座り、マニュアルの第二部を開き始めた。
イルヴィンも自分の椅子に座り、キーボードの上に手をかざした。
「今どきキーボードなんて」
そう言った時、ディスプレイにウィンドウが開いた。
「これは何だ?」
テリーはマニュアルから顔を上げ、ディスプレイを見た。
「見てのとおり、コンソールかな」
「今、手をかざしたから出たのか?」
「後で試してもいいけど。キーボードの認証に時間がかかっていただけかもな」
そう答えると、テリーはまたマニュアルを前に後にとめくった。
「ユニットのパージとか交換の履歴でいいんだよな?」
「あぁ」
「だとしたら、まずこれを試してみてくれ」
マニュアルを広げ、テリーはイルヴィンに向けた。その見開きにある引用と見える箇所を指差した。
それとキーボードを見ながら、イルヴィンは両手の人差し指で、書かれているものを入力した。
「いつの履歴を見たいんだ?」
イルヴィンが数字列の入力にかかろうかとした時に、テリーが訊ねた。
「一昨日の夜。22時くらいかな」
「だったら、そこはこう入力してくれ。その後は、マニュアルのとおりでいい」
テリーは数字列を指示した。
「まったく、今どきキーボードなんて」
入力を続けながら、イルヴィンはまた呟いた。
「よし。入力したぞ」
そう言ったが、ウィンドウにはイルヴィンが入力したものが表示されているだけだった。
「エンター・キーを押せよ」
テリーは、一つのキーを指差した。
そのキーをイルヴィンが押すと、いくつもの数字の羅列がウィンドウを流れ、いくつかがウィンドウに残った。
「これじゃ、わからない」
「いや、まずはそれでいい」
「どこが?」
イルヴィンはウインドウを指差した。
「あんたが言った時間のあたりに、ユニットのパージなり交換がされていることはわかった」
テリーはそう言うと、またマニュアルに顔を戻し、今開いていたページに左手の親指を挟んだまま別のページを開いた。
「今、入力したのを、もう一度入力してくれ」
新しいページに人差し指を挟み、先程のページをもう一度開いた。
そのページを見ながら、イルヴィンはもう一度同じものを入力した。
「おっと、エンターの前にこれも入力して」
テリーは人差し指を挟んであったページを開き、右手の人差し指でその一部をなぞった。
「その行、全部でなくていいんだな?」
イルヴィンはマニュアルを見て言った。
「あぁ。全部じゃない。この部分だけ」
イルヴィンはその部分を入力し、テリーを見た。
「うん。そこでまたエンターを」
ウィンドウには百数十という数字が現われた。
「トムが倒れた時には、何個のユニットを交換していたんだ?」
「たぶん、同じくらいかな」
「それも確認してみよう。今と同じ入力で、数字列のところを…… 俺が来た少し前だから……」
そう言い、別の数字列を指示した。
イルヴィンがそれに従って入力しエンターを押すと、別の数字が現われた。その数はやはり百数十だった。
「じゃぁ、そろそろ一昨日の夜に何があったのかを教えてくれないか? 何もなかったっていう答えはいらないぞ」
イルヴィンがディスプレイから左に顔を向けると、テリーはイルヴィンの顔を覗き込んでいた。