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「ねえ、一真(かずま)。隣のクラスの大森君。残機あと2機になっちゃったんだって。」
高校の帰り道。夕日に照らされた河川敷。幼馴染の雪菜が言う。まさに雪のような白い肌。華奢な体。つぶらな瞳。小動物のような愛くるしさのある女の子だ。
「残機2?なんでまた?」
僕は眉をひそめた。高校生で残機2とは中々だ。普通じゃありえない。
「なんかね。もともと子どもの頃に虐待を受けていて残機3になるまで殺されていたんだって。」
「あぁ、なるほど。」
モヤっとした気持ちが心の中に浮き出た。それはそうだろう。15年程度で5回も死んでいるのだ。「意図的」に誰かに殺され続けている方がしっくり来る。
「その大森君が昨日ね、交通事故にあったみたいで。」
「それは・・かわいそうに。」
僕はほとんど話したことがない大森君に心底同情をした。
「あと2回死んだら終わりって、とっても怖いよね。大森君、可哀想。」
雪菜は下を向き、心細げに呟く。心配性で共感能力の高い彼女は何かにつけて人の心配をしてしまう。
「・・うん。」
僕はそんなとき、かけるべき言葉を見つけられないのだ。出来ることといえば、
「でも、ずっと昔はさ。たった1回死んだら残機0になっていたんだ。それと比べたらまだ救いはある。」
と救いにならない話をすることくらいだった。
「そっか。そうだよね・・でも、信じられないなぁ。1回死んでしまったら人生が終わりなんていう世界。」
僕らの世界はちょうど100年前。異星人と地球との交流がはじまった。
しかしだからといって急激なテクノロジーの発達があったわけではない。
あまりにも高水準の文明が突如入れば混乱を招くと判断され、異星人からもたらされた多くの技術は世間に隠されたままだ。
ただ、その中で唯一、人々の生活に浸透したのが残機技術。つまりはクローン。
このおかげで僕たちは不慮の事故にあっても再び同じ人間として復活することができる。
もちろん半永久的にそれができてしまえば人類の人口は増える一方。
そこで上限が決められた。
それが残機7法案。通称「7回死ねます法案」であった。