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不親切な街

全く都会っていうのは不親切だ。俺は乞食。
道端にゴザを引いてそこに空き缶をおき金を誰かが入れてくれるのを待つ。

金をもらえたら、その日の飯代にして、それでも余れば橋の下の家に貯める。次の日は再びカラの缶を持って出かけるといった具合だ。

この上なくシンプルな仕事。


しかし、ただ待つっていうのも暇なもの。
俺は何人の人間が俺の前を通り過ぎ、何人の人間が俺に金をくれたのかを数えてみることにした。


朝9時。俺は自分の目の前にカラの空き缶を置く。夜の9時まで12時間。それが俺の活動時間だ。
1000人近くの人間が俺の前を通り過ぎた。金をくれたのはたった5人。200人に1人。

なんて少なさだ。それにあのゴミを見るような目。改めて数字に出してみると、この土地はどうしようもなく冷たい街だった。



そこで俺は都会から離れて小さな農村に移り住むことにした。

やはり田舎の人間は優しい。

俺がくたびれた様子で座っていると、目の前を通り過ぎる人が次々に話しかけてくる。


「どこから来た?」

「なんで乞食なんかやっているんだ?

「飯はちゃんと食っているのか?」





俺も嬉しくて色々と話しちまった。やっぱり人は人同士。繋がっていないとダメなんだな。

夜9時、俺は久しぶり充足感を味わいながら、カラの空き缶を持ってその場を後にした。


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