ここが木の葉寮
春、それは出会いの季節。
春、それは別れの季節。
四季が存在し、入学式や入社式という、ある種のふたつのしきが存在する日本ではそれが強く現れているだろう。
そして、高校2年になる俺もまた、ひとつの別れをして、新たな出会いとなる場所へと足を運んでいた。
「ったく、なんでこんなことになっちまったんだ」
もともとは別の高校に通っていたんだが、親の海外への異動を始めとして様々な問題の解決で休みとは思えなかった3月の春休みを過ごした末に、俺は全寮制の高校、天王路高校へと転校することになったわけだ。
だが、それだけなら3月潰す必要も全く無いという話だよな。
そう、問題はそこでも続いたってわけだ。
今年入学の高1の子やでていく高3の子の手続きなどの様々な忙しさで、手続きが中々進まない。
その上で最終的に俺の耳に届いた電話機を伝った声は「普通の男子寮がすでに定員で部屋が空いてないみたいで、すぐにいろいろな調整をするのでもう少しお待ち下さい!」だった。
職務怠慢だとかそういう訴えも起こしたいが、訴えを起こしてそっちの手続きをさせるよりも、まずは俺の寮の問題を解決してもらいたいという感じに俺は引っ越しの準備を整えながら次の連絡を待った。
そして3月末に「普通の寮はやはり埋まってたみたいで……いえ、相良さんは悪くないんです! ただ今年妙に3年の留年生が多くてですね。寮のほうでも結構驚きで……それで、少し特殊な寮ならあいているのですけど、そちらでも大丈夫でしょうか」という連絡がきた。
俺はその特殊な理由も何も聞かずに、とにかく親が異動のために日本をたつ前に量を決めて安心させたい一心で「大丈夫です!」と力強く答えたのだった。
そして現在4月の上旬。春休みも残り僅かなこの日に、俺は新たな寮(いえ)へと足を運んでいるというわけだ。
高校から2駅、そして駅からは徒歩で10分程度の場所にある場所、俺はその場所に辿り着いた。
周りを見渡すと、アパートがちらほらありつつ、一戸建ての家もある至って普通の住宅街だ。ちょっと田舎だから、くるまでに畑とかもあったけど。
それはいい、寮というからてっきり俺は、いくら特殊といえどもアパートなりマンションなりの形をとっていると思っていたんだ。
だが、俺は3度見するほどに地図とその家を見なおした。そして近くの番地が書いてある電柱を見た。
「マジでここなのか……」
俺の目の前にある家は完全に、大きめの一戸建てにしか見えなかった。
小さな一戸建て2つ程度ほどの大きさかもしれない。見た目から2階建てで、下手なことしなければ小さな部屋なら2階のみでも4部屋と洗面所つけられる程度の大きさ。
そして1階を見ると、庭が見えるだろう大きな窓で雨戸を閉まってあるだろう、名前はよく知らないあれもついてる。
というかその窓からは明らかに。広めのリビングが見えるけど、つまりそれは、共有スペースに変わりないものといえる。
俺は恐る恐る、その家のチャイムを押した。
『はーい……ふぁ~、どちらさまですか』
チャイムのスピーカーから寝起きのようなそんな女の人の声が聞こえる。
「すいません、聞きたいのですが、ここは天王路高校《木の葉寮》であっているでしょうか?」
間違いだと言ってくれればそれでいいけど、本当だとしたらなんで女子がいるんだ!?
『はい、そうですけど』
正しかった!!
間違っていなかった。だとしたら二度目になるけど、なんで女子がいるんだ!
「あの今日からお世話になる予定の相良と言います」
『あぁ~……ちょっと、待ってください。おーい、晴彦!!』
マイクから離れていくように声が聞こえなくなっていく。
そして次に男の声が聞こえる。
『はい、えっと相良たけしくんだったね』
「すいません。健でけんって読むんです」
間違えられることが多かったりする読み方でごめんなさい。
『あ、そうだったのか。ごめんね。えっと、ここで、あってます。いま鍵あけるから、扉の前まで来て大丈夫だよ』
そう言うと、通話で青く光っていたチャイムのライトが赤くなる。おそらくスピーカーがきれたということだろう。
俺は恐る恐る、その門を開けて中の扉の前まで移動する。
すると中から扉があけられて、メガネをかけたボサボサ髪の男がでてくる。
「ようこそ、相良くん。木の葉寮へ」
ここから俺の新しい生活がスタートする。