06
手早く乗り込むと、すぐさま扉は閉まって上方へ。その間に若干上がった息を整えていると、不意にレゾンから通信が入った。
「フードをかぶっておいた方がいい」
「え?」
「人に気圧されるかもしれない。心の準備をしておいてくれ」
ヴィオレは顎を引き、無線を着けたきり下ろしたままだったフードをかぶる。
思えば、服を着ているのにフードを下ろした状態で廊下を走ったのは初めてだったかもしれない。視線を感じている暇はなかったし、そもそも相手だってそれだけの余裕があったとは思えないが。
エレベーター内に備え付けられた見慣れないボタン類に目を向けていると、いつもよりはやく箱が減速を始めた。
完全な停止のあと、一呼吸置いてレゾンが重ねて言う。
「気を確かに持て」
音もなく開いた扉の向こうから、まず現れたのは喧騒だった。
それがなんなのか、ヴィオレは最初分からなかった。やがて、たくさんの人が集まったときに生じる声や音の重なりだということに気づかされる。
押し寄せる人の波が、そこにはあった。
年齢も性別も問わない、服の色も問わない、ただ髪と目の色だけは全て黒い人間たちが、エレベーターの前に集まっていたのだ。扉が開いたことで騒ぎ出した十数名に引きずられるように、喧騒は勢いを増す。
浅間にはこれだけの人間がいたのか。ヴィオレの知らない浅間の中層が、いま目の前にあった。
「圧されるな、ヴィオレ。これでもほんの一部だ」
レゾンの声に引き戻され、ヴィオレは意識を引き締めた。
そして、入り口の前に立ちふさがるいくつもの背中ようやく気づく。喧騒の元である集団がこちらに近寄って来れないのは、黒で統一された装備に身を固める者たちが、透明の大楯を持って壁を作っているからだ。
その内のひとりが、開いたエレベーターに気づいて首だけで振り向く。
「レゾンの合図で道を作る! その間に走れ!」
張りあげた声に慣れていないヴィオレは、勢いに流されるままに頷いた。
知らない人間が、想像もしていなかった数で、しかもこちらに向かおうとしている。ことの異常さは、ヴィオレの想像をはるかに超えていた。ペストが浅間に入ったなど、なんでもないように思えてくる。
「生き残りたいのさ」
レゾンの声には、呆れや諦めが多分に含まれていた。
人間だったらため息混じりだっただろう。
「自分が生き残りたいから、生き延びるための唯一の方法すら邪魔してしまう。本能が理性の邪魔をして、結果生き残れない道を選んでしまう──まぁ、そこが愛おしいとも言えるがね」
愛おしい。
そんなことを感じる余裕はヴィオレにはなかった。レゾンはこの場の異様さを感じているのだろうか。雰囲気を読み取る機能は人工知能にあるか、正直疑わしいところではある。それとも、長く起動していればこの程度、さして驚くようなものでもないのだろうか。
「カウントを始める」
あえて突き放すような口調を選んだのは、レゾンの意図だろう。
なにはともあれ落ち着かなければ、この場を脱することはできない。ヴィオレの戦場はここではないのだから。
「三、二、一、走れ!」
「おおおっ!」