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02

 自分を担当する科学者をけなしたり、体を晒さなければならない研究所の構造に愚痴を言いながら、かしましく笑い合っていたのを、今でも覚えている。

「ヴィオレ」

 絞り出すような声で名前を呼ばれ、ヴィオレは気だるげに顔をあげた。

 開きっぱなしにしていた鉄の扉から、ちょうど御堂が屋上へ出てくるところだった。運動性など欠片も考慮されていない室内履きで、ここまで走ってきたらしい。彼が肩で息をしているのは初めて見る。

「来ないで」

 自分でも驚くくらいに冷たい声が出た。

 びくりと足を止めた御堂は、なにを言おうか迷っているようだった。疑問が最初に出てこないということは、おそらくレゾンから全て聞いたのだろう。ヴィオレは適当に推測したあと、約束は守れないなと頭の片隅で思った。

 みんなが浅間に戻ってきたら、御堂の研究室に行く。ただそれだけのことも、今のヴィオレにはひどく難しい。

「なんで会いにきたの?」

 不快感は隠さなかった。

 今はレゾンの声を聞きたくないし、御堂の顔も見たくない。そんなことは二人とも分かっているはずだった。

「ペストが、出たからだ」

「そう」

「浅間の中に」

「……へぇ」

 そんなこともあるんだ、と無責任に続けてみせると、御堂は驚いた顔をした。

「わざわざ地下を掘り進んでくるなんて、物好きなペストもいるんだね」

「そんなことを言ってる場合じゃ──」

「なんで?」

 はぐらかすつもりはない。

 ヴィオレからすれば、これはまっとうな疑問だった。

「ペストが怖いの? 浅間を守りたいの? 死にたくない? 別にどれでもいいけど、そんなにハイジアにペストを倒してもらいたいんだったら、ちゃんと作ればよかったのに」

 分からない。

 わざと低いスペックのハイジアを作っておきながら、前線に送り出す理由が。

 意図的に作った失敗作に、すんなり自分の命を預ける神経が。

「私はちゃんと働いてきた。でも、ペストを倒したくらいじゃあ、誰も私のことを認めてくれない。今回の一匹だって同じでしょ。私が出るときなんて、大抵は塔の近くまでペストが接近したときで、今の状況と大して変わらない。私が出なければ浅間にダメージがあったかもしれないのに、私の扱いは失敗作のままじゃない」

 御堂が苦々しく表情を歪めるのを、ヴィオレは妙に凪いだ心で見つめていた。

 達観していると言ってもいい。ヴィオレが欲しかったものは、もう手に入らない。拠り所のないヴィオレが生きていてもいいのだと思えた可能性は、もうどこにもない。

 ヴィオレにとって封印計画は、それほど大きいものだった。自分が生きていてもいいと思うために、誰も知らないところで仮死状態になる。どこに問題があるだろうか。ただ生きているだけでは認められないのだから、役に立てるただひとつの方法を実行しなければいけなかったのだ。

 その可能性を、御堂とレゾンは奪った。彼らはヴィオレに優しくしてくれたかもしれないが、対価として払った他者からの扱いはあまりに大きすぎる。

「ちゃんと作らなかったのに、まだ私にはちゃんと働けって言うの?」

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