茜
今年最後の授業が終わって学習塾を出た。外は真っ暗で、激しく雪が降っていた。傘を持って来なかったので、どうしたものか? と、聴き慣れたクラクションがした方を見たら案の定ママの車が見えた。足早に近付いて、後部座席に乗り込んだ。ママがタオルをくれたので身体に付いた雪を拭った。車が走り出したところで私は言った。
「お迎え有難う、助かった」
「あんた、どうせ傘忘れてったんでしょ?」
「ふふふ…お見通しか」
「母親ですからね」
車は塾のあった路地から出て、表通りで左折した後、交差点を右に曲がりそのまま片側2車線の通りの中央寄り車線を進んでいった。
突然ママがブツブツ言い出した。
「何あのトラック。え? ちょっと、嘘でしょ、やめて」
私が前を向くと、反対車線のトラックのヘッドライトがぐんぐん近付いてくるのが見えた。うちの車のクラクションの音の中、ママは何かを叫んでいた。トラックは中央分離帯に乗り上げたのか、大きく飛び上がるのが見えた。
※※※
塾の授業はこれが今年最後、数学だった。けれども始まってすぐ、何かどこかで既にやっているような気がした。テキストを確認してみたら、全部解き方が分かった。うーーん、これなら塾に来ないで、乃々果と一緒にサボれば良かったか…。今日は早起きしたせいもあって眠い。周りの邪魔にならないように、机につっぷして寝ることにした。
※※※
「茜? 起きなよ。もう授業終わってるよ?」
「ん? あれ、乃々果いたの?」
「あたしが来た時には、あんたもう寝てたから知らないでしょうね」
「あははは。今日朝練早かったからね…」
「それより雪降ってるみたいなんだけど」
「あぁ…多分うちのママが迎えに来てくれてる気がする。そうだったら、乗せてってあげるよ」
「それは助かるなぁ…けど、お腹空いたな」
「そうだね、私もペコペコ…何か食べてこうか?」
階段を降りて玄関を出た。聴き慣れたクラクションの方にママの車が見えた。後部座席に乃々果と2人で乗り込んだら、ママがタオルをくれたので2人で身体の雪を拭った。車が走り出したので私は<大急ぎで>言った。
「お腹空いたからさ、食べて帰ろうよ。そこの交差点左に曲がったとこにファミレスなかった?」
「あぁ、偶には良いか。乃々果ちゃんも食べていける?」
「えっ、私まで良いんですか?」
「いいわよ、いつもうちの子見てくれてるお礼」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
※※※
食事の後、乃々果を家まで送っていった。
「良いお年を」
「また、来年も宜しくね」