バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第83話 予想もしない場所での急襲

 誠は店を出ると奇妙な感覚に囚われた。

 何者かに見つめられているような感覚。そして虚脱感のようなもので力を込めることができない体。それが第三者の干渉空間の展開によるものだと気づいたのは、ランが厳しい表情で店の扉をすばやく開けて飛び出してきたのと同時だった。

「神前。オメーは下がってろ、こいつは相手が悪すぎる!相当な使い手だ」 

 そう言ってランは子供用のようなウェストポーチから彼女の愛銃PSMを取り出した。周りの買い物客はランの手に握られた拳銃に叫び声をあげた。 

「司法局です!危険が予想されます!できるだけ頭を低くして離れてください!」 

 我に返った誠はそう叫びながら身分証を取り出して周りの人々に見せつつ干渉空間を展開した。店の中のアメリア達は警戒しながら外の様子を見守っている。カウラとアメリアは丸腰だが、かなめはいつも通り愛銃XMD40を携帯していた。

「あのパチンコ屋のある雑居ビルの屋上です!あそこにこの干渉空間を展開している人が居ます!」 

 誠はその明らかにこれまで接触をもったことの無い種類の干渉空間を発生させている人物の位置をアメリアに伝えた。

「おう、相手の能力が分からねー時は感覚通信は危険だって習ってるんだな。良い事だ」 

 ランはそう言うと店から銃を構えて出てきたアメリアにいったん止まるように指示を出した。

「とりあえずクラウゼ。テメーはベルガーを連れて一般人の避難誘導の準備をしておけ。それと西園寺は現状の把握ができるまでこの場で待機。指示があるまで発砲はするな!これがアタシ等に対する敵対行為だと決めてかかるにはまだ材料が足りねー。それが分かるまでは撃つな」 

 そう言うとランは彼女の拳銃に驚いてブレーキを踏んだ軽トラックの前を疾走して敵対的な行動を示している法術師の確保に向かった。誠はいつでも干渉空間を複数展開できることを確認すると、先日嵯峨から受け取った銃、モーゼル・モデル・パラベラムに初弾を装填するとそれを構えながら雑居ビルの階段を登ろうとするランの背中についた。

「的確な判断じゃねーか。まあ、もう少し状況を把握してくれる探知系の干渉空間をはじめに展開してくれたら楽だったんだがな!」 

 そう言ってランは銃を構えたまま開く。誠は開いた扉から出てくる男に反射的に銃口を向けていた。

 雀荘から出てきた近くの大学の学生らしい若い男はその銃口を見て驚きの声を上げた。だが、すぐにランが銃口を下げて階段を下りるように手を動かすと、すごすごと降りていった。

「そいつじゃねえ!まだあの法術師は屋上にいる!不用意に銃口を人に向けるな!テメーは西園寺か!」

 そう言うとランは先頭を切って非常階段を駆け上っていった。

 その速度は誠の想像をはるかに超えるもので、まさにランの得意とする『身体強化』法術のなせる業だった。

しおり