第74話 説明書は必ず読みましょう
「エントリーする?それとも一戦目は傍観?パイロットなら初戦から当然エントリーよね」
そう言うアメリアの言葉がかなり明るい。それが誠のパイロット魂に火をつけた。
「大丈夫です、行けますよ。エントリーします!」
誠はそう言ったが、実際額には脂汗が、そして手にもねっとりとした汗がにじむ感覚があった。
エントリーが行われた。チーム分けはゲームセンターの場所を根拠にしているようで、32人のエントリー者は東と西に分けられた。誠とアメリアは東に振り分けられた。
「誠ちゃん。この機体には法術増幅装置は無いわよ。法術無しでどれだけできるか見せてよね」
アメリアの声が出動前の管制官の声をさえぎるようにして誠の耳に届いた。
『負けられない!』
へたれの自覚がある誠にも意地はある。撃墜スコアー6機に巡洋艦一隻撃沈。エースの末席にいる誠はスタートと同時に敵に突進して行った。
『誠ちゃん!それじゃあ駄目よ。まず様子を見てから……』
そんなアメリアの声が耳を掠める。敵はミサイルを発射していた。
26世紀も終わりに近づく中、実戦においてミサイルの有効性はすでに失われていた。アンチショックパルスと呼ばれる敵の攻撃に対し高周波の波動エネルギーを放射してミサイル等を破壊する技術は、現在の最新鋭のシュツルム・パンツァーには標準装備となっている防御システムである。
当然、誠も05式にも搭載されているそのシステムを利用して、一気に弾幕の突破を図るつもりだった。
『へ?』
初弾は防いだものの次弾が命中する、そして次々と誠の機体に降り注ぐ敵のミサイルはあっさりと05式の装甲を破壊した。
『はい、ゲームオーバー。本当に誠ちゃんは下手ね。それでよくパイロットが務まるわね』
アメリアの声が響いた。
「これ!違うじゃないですか!現代戦において迎撃ミサイルの有効性なんてたかが知れてるって東和宇宙軍の教官が言ってましたよ。シュツルム・パンツァーにはミサイル防御システムが搭載されていてそれで……」
誠は実機に乗った経験のあるパイロットならではの言い訳を繰り返すが、非情にアメリアは首を振った。
『言い訳は無しよ。このゲームではアンチショックパルスシステムなんかも再現されてはいるけどゲームバランスの関係であまり使えないのよ。あくまでこれはゲーム。実戦とはかなり違う訳。分かった?』
そう言いながらレールガンを振り回し、アメリアは敵機を次々と撃墜していく。誠はそのままゲーム機のハッチを開けて外に出た。
大型筐体の中で何が起きているかを見せる大写しのモニターの前では格闘ゲームに飽きたというようにギャラリーがアメリアの機体のモニターを映した大画面を見つめている。
「アメリアさん、あれだけ大口叩いたんだから、『特殊な部隊』の意地を見せてくださいね」
あっさり瞬殺されてパイロットとしての自信を失いかけながら、誠は画面の中を動き回るアメリアの赤い機体に視線を集中した。