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勝利

 マティアスはイグニア軍に向かってさらに距離を縮めた。もう一振り風の剣を打とうとして、魔力が封じられている事に気づいた。

 おそらくフードをかぶった連中が魔法使いで、マティアスの魔法を防ぐアンチ魔法を発動させているのだろう。

 マティアスは剣を振りかざしたまま、イグニア軍に突っ込み、斬りかかってくる敵兵の首を斬りつけた。まるで真っ赤な花が咲いたように、敵兵は血しぶきをあげながら倒れていった。

 遅れてリカオン率いる軍も到着し、イグニア軍をはさみ撃ちにした。マティアスは目の前にやってくる敵を斬って斬って斬りまくった。

 しばらくして自身の身体に魔力が戻ってきた事に気づいた。

 直後に地面が揺れた。これは地震ではない。マティアスがマックスの手綱を絞ってその場に立ち止まると、地面から水の柱が噴き出した。

 水の柱はまるで命を持ったヘビのようにイグニア軍に襲いかかった。それは自然界の猛威のようだった。

 召喚士レティシアと契約霊獣の魔力は人間の人智を超えたものだった。

 マティアスはイグニア国を手中におさめた。元イグニア国王から、ゲイド国の奸計を知らされ、すぐさまゲイド国の国境に向かう。

 これもヴィヴィアンから知らされていた事だ。手はすでに打ってある。イグニア国の国境に一番近い街に、すでにマティアスたちが乗り換えるための馬が用意されているのだ。

 マティアスは愛馬に別れを告げた。

「マックス。必ずまた会おう」

 マックスは黒い瞳でジッとマティアスを見た。

 マティアス。約束。必ず、また会う。

 愛馬の心がマティアスの心に染み込んでくる。

「ああ、約束だ」

 マティアスはすぐさま次の馬に乗り、出発しようとしたが、レティシアがちゅうちょしたのだ。

 レティシアは愛馬であるティアラと別れがたいのだ。マティアスはレティシアにここに残るように言った。

 レティシアはすでにザイン王国軍に大きな勝利をもたらしてくれた。ゲイド軍との戦いはさらに危険だろう。

 レティシアは美しい赤い瞳でジッとマティアスを見て、マティアスと共に行く事を望んでくれた。マティアスの胸は熱くなった。

 
 ザイン王国軍は着々とゲイド国国境に近づいていた。マティアスはゲイド国との戦いの前に、つけなければいけない決着があった。

 おそらくゲイド国国境付近で仕掛けてくるだろう。マクサ将軍がマティアスを暗殺しにやってくる頃合いだ。

 マクサ将軍はマティアスが幼い頃からザイン王国軍にいる将軍だ。だがマティアスの父ではなく叔父のイエーリに忠誠を誓っていた。

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