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無垢なる過怠編 9


 俺たちは無事にエールディの街へと侵入する。

「きゃー! 反乱軍よ! 反乱軍が侵入してきたわ!」

 街へ入るなり、こんな悲鳴を聞かされた。

 ちょっと待てよ、と。
 反乱軍はビルバオ大臣の方だっつーに。

 でも意外とエールディの街中は平和そうだ。街に入ってすぐの繁華街では敵の負傷兵が横になって列をなしているが、我々に攻撃してくる気配もない。
 そのすぐ近くではいつも通りの経済活動が行われており、そのコントラストが逆に異様な光景となっている。

 そんな光景を尻目に、俺たちは城へ。
 ところどころに点在する警備の敵を倒しながら城内をぐんぐんと進むと、しばらくして玉座の間に到着した。
 玉座の間からはわずかながらビルバオ大臣の気配。
 意を決して扉を開けると、案の定そこには目的の人物がいた。

「やはり来たな、タカーシよ。貴様を捕まえておけばこの戦いは我がヴァンパイア軍の有利になる」

 ふっ。

 敵はビルバオのみ。こちらはバーダー教官にアルメさん、そしてマユーさん。
 負けるはずがない。

 そう認識した俺はわずかに笑みを漏らす。

 しかし、次の瞬間に俺はその笑顔を強張らせてしまった。

「そうきたか……」

 俺と同様、ビルバオ大臣が余裕の笑みを見せていた理由。
 玉座の背後の暗闇からビルバオ軍の幹部たちが姿を現したんだ。
 こいつら、気配を消して潜んでやがった。

「タカーシ……無駄な抵抗はやめろ。我が配下になるならば命だけは見逃してやろう」

 いやいやいやいや。
 なんでそんなに俺に固執するねん! お前はストーカーか?
 いや、そうじゃない! なんだ? これは罠だったってことか!?

「くそ。幹部連中がこんなにも残っていたか……」

 バーダー教官の言葉に、ビルバオ大臣が不敵な笑みで答える。

「ラハトのこせがれに、暴れ狼よ。貴様らは始末してくれるわ。もちろんそちらの麒麟も一緒にな」

 ……

 ……

「やれ」

 双方が武器を構え、ビルバオ大臣が短くそう言い放った。
 次の瞬間、戦いの火ぶたが切って落とされる。

 ビルバオ大臣とその部下およそ20体。対するこちらは俺を含めて4人。
 戦うには狭すぎる玉座の間で、激しい戦いが始まった。

 斬撃や打撃、その他もろもろの魔法攻撃が入り乱れ、玉座の間が見るも無残な姿へと変わる。
 俺も幻惑魔法と自然同化魔法を発動して戦ったが、悲しいことに俺の斬撃は高速で動く敵の速さについていけない。
 そんな戦闘が数分行われたところで、バーダー教官が言った。

「タカーシよ。ビルバオの狙いは貴様だ。今すぐここから逃げろ」

 そんなことできるわけねーじゃん。
 せっかくここまで来たんだし、つーかここにいる敵ヴァンパイアはかなりの強者だ。
 俺がやつらの幻惑魔法を無効化しないと、いくらバーダー教官たちだといっても劣勢になりかねん。


 つーかさ……。


 ――やってやる。


 あぁ、そうだ。
 ちょっと身の丈に合っていないような気もするけど、この俺がこの戦いに終止符を打ってやる。
 そのためにもビルバオ大臣を倒さなきゃな。

 そう決意した俺は背負っていた鉄砲に手を伸ばす。

 目標は玉座の間で余裕こいてにやつき顔をさらしていやがるビルバオ大臣。
 そんなビルバオ大臣の狙いを定め、俺はとりあえず3発同時発射式の鉄砲を撃った。

「ぐっ」

 しかしというか、やはりというか。それはビルバオ大臣に防がれる。
 挙句、ビルバオ大臣は勝ち誇ったような顔をしてこう言い放った。

「無駄だと言っているだろう? タカーシよ」

 わかってるわ。
 だけど、俺の鉄砲はこれだけじゃねーんだよ。


 お次はニューモデルの鉄砲だ。

「ふひひ……」

 ビルバオ大臣の笑みに負けないぐらい気持ち悪い笑みをこぼしながら、俺は最新モデルの鉄砲を背中から取り出す。

 このモデルは時限式の三連発銃だ。
 3つの鉄砲を束にし、銃底部分の空洞を小さな穴でつなげたこの鉄砲。
 銃弾とトリニトロトルエン草にちょっとした細工をしつつ、その内の1つの銃底に火をつけると1発目が発射し、その時の火が2本目の鉄砲の銃底部に燃え移って次の銃弾が発射。同様に3発目も少し遅れて発射。
 といったふうに1回の着火で連鎖反応的に――そして時間差を置いて銃弾を連続発射することが出来る鉄砲だ。

 開発当初はいつ使えばいいのかもわからん鉄砲だったが、今こそがそれを使うべきだったんだ。

「今度はこっちだ……くらえ」

 俺は小さく叫びながら、火系魔法を用いてニューモデルの1発目を放つ。
 それはもちろんビルバオ大臣に防がれるが、その時の火が導火線のように鉄砲の内部を伝い、2発目、3発目が自動的に発射された。

 それはやつも予想外だったらしく、銃弾は油断したビルバオ大臣の胴体を見事に貫いた。

「うしっ!」

 しかしこれで死なないのがヴァンパイアというもの。
 俺はビルバオ大臣にとどめを刺すため、即座に走り出す。


 しかし――


 瀕死のビルバオ大臣はそんな俺の動きを予想して攻撃を仕掛けてきやがった。


 全速力でビルバオ大臣へと接近していた俺はそれを受け止めきれず……って、ヤバい! これ、俺も死ぬんじゃ?


「ぐふっ!」


 しかし、バーダー教官が俺とビルバオ大臣の間に入り、敵の攻撃を受けてくれた。
 そして俺はすぐにビルバオ大臣にとどめを刺す。

 いや、待て。
 さっきのビルバオ大臣の攻撃……鋭い爪がバーダー教官の胸を貫いていたぞ。


「バーダー教官! しっかりしてください!」
「ぐふ……タカーシよ」
「しゃべらないで!」

 おいっ! ちょっと待てよ! これマジで致命傷なんじゃ!?

「しっかりしてください!」

 この状況で、そう言うことしかできない自分が情けない。
 しかし、大きく開いたバーダー教官の胸の傷は俺の手じゃ防ぎきれん。


「バーダー教官!? バーダー教官!? ダメです! 死なないで!」


「タ、タカーシよ……北の国……へ、行け。そこに、お前と俺の……兄がいるはずだ……」


 そんな言葉を残して、バーダー教官は……そう、バーダー教官はあっけなく死んだ。


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