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マティアスとルイスの気持ち2

 マティアスがルイスの部屋に行くと、ドアの前にリカオンが立っていた。

「ルイスは寝たのか?」
「ああ、」

 リカオンは小さくうなずいてからルイスの部屋のドアを開け、ベッドの毛布をはいでくれる。マティアスは心得たようにルイスをベッドに寝かせた。リカオンがルイスの首元まで毛布をかけてやる。

 マティアスはベッドのはしに座り、穏やかなルイスの寝顔を見つめた。

「ルイスの奴ちっとも重くならないなぁ」
「バカタレ。ルイスだって少しは大きくなってる。食事だってがんばって食べてる」
「・・・。そうか」

 リカオンの怒ったような返答にマティアスはルイスの寝顔から目を離さないまま答えた。

 ルイスが食事の好き嫌いをするようになったのは、マティアスが毒を飲んで血を吐いた場面を見たからだ。幼いルイスは食事というものを恐怖するようになった。

 幸いマティアスは処置が早かったので助かった。マティアスはその頃から、城を出て外で食材を取ってくるようになった。

 木の実や野生の草、川魚。それらを料理して自分とルイスの食事にした。マティアスは廃材や木材を利用して、小さな小屋を建てた。

 そこに保存のきく食べ物を保管し、こっそり城を抜け出しては食べ物を調達していた。

 この頃になると、マティアスはルイスと共に城から出て、二人で暮らす事を考えていた。

 最愛の母とのいまわの際の約束。生きて。弟を守って。

 マティアスはルイスを連れて城を出ようとした。このままではマティアスもルイスも叔父のイエーリに殺されてしまう。

 マティアスは、ルイスもきっと賛成してくれると思っていた。マティアスとルイスはまだ子供だが、二人でならどこであっても、きっと暮らしていけると考えていた。

 だがルイスの考えは違った。ルイスは大きな瞳を見開いて、怒ったような顔でマティアスに言った。

「兄上は王族としての自覚はないのですか?!私利私欲でしか動かないイエーリ叔父上が国王になれば、国民たちは不幸になります!僕と兄上は王族なのですよ?!王族としての責務を果たさなければいけません!」

 マティアスはルイスの顔をまじまじと見つめた。ルイスの目には強い決意が宿っていた。次のザイン国王になるべきはルイスだ。

 マティアスは幼い頃、仰ぎ見た父である国王の顔を思い出していた。ルイスが生まれてすぐに父は殺された。そのためルイスには父親の記憶はないだろう。

 だがマティアスはルイスの中にありありと父の面影を見た。

 その時マティアスは自身の使命を悟った。マティアスはあらゆる危機からルイスを救い、ルイスを王にするべく存在しているのだと。

 マティアスはルイスのあどけない寝顔を見つめた。

「ルイス。この戦いが終われば、お前はザイン王国という巨大な大国の王となるのだ」

 マティアスはルイスのつるりとした形の良いおでこに、ありったけの想いをこめてキスをした。

 

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