マティアスの気持ち
マティアスはヴィヴィアンに恐れをなした。リカオンとレティシアが剣の試合をする時も心を読んだとは口がさけても言えなかった。
ヴィヴィアンは怖い顔をしながら、マティアスの気持ちを探るような表情をした。
マティアスはヴィヴィアンの眼力に怯えながら黙る。ヴィヴィアンはハァッと深いため息を吐いてから口を開いた。
「マティアス、いい事?レティシアお嬢さまはとても心優しく芯の通った素敵な女性よ?マティアスとレティシアお嬢さまではまったく釣り合わないわ」
「そんなぁ、ヴィヴィ」
ヴィヴィアンに決定的に宣言され、マティアスは泣きそうになった。ヴィヴィアンは、だけど、と言って言葉を続ける。
「もしレティシアお嬢さまがマティアスの事を好きになれば、私は全力で貴方たちを応援するわ」
「えっ?!ヴィヴィ、応援してくれるの?!」
「言ったでしょ?レティシアお嬢さまがマティアスに恋をしたら、よ」
恋。マティアスは生まれてこのかた恋などした事がなかった。幾度となく命の危険にさらされ、弟と生き残る事だけで精一杯だったからだ。
マティアスが家族として愛する事ができる存在は、この場にいるルイスとリカオン、そしてヴィヴィアンだけだった。
恋とはルイスたち家族に向ける愛情とは違うのだろうか。マティアスはレティシアとの多くはない共に過ごした時間を思い出した。
レティシアは霊獣の契約者だけあって、動物にも優しかった。マティアスの愛馬マックスの頬を優しく撫でて、綺麗な馬だと言ってくれた。
マティアスはレティシアの美しい笑顔を、まるで神聖なものを見るような気持ちで見ていた。
これからマティアスはレティシアと共に戦争に行くのだ。この期間でどうにかレティシアと親しくなれないだろうか。
マティアスはこれから戦争に行くというのに、レティシアの事で頭がいっぱいだった。それをリカオンに見抜かれてひどく怒られた。
月日はあっという間に過ぎ、マティアスたちザイン王国軍が翌朝出軍する事になった。
マティアスが剣の手入れををしていると、自室のドアをノックする者がいた。開けなくてもわかる。マティアスの最愛の弟ルイスだ。
「ルイス、入ってこい」
ルイスは無言で部屋に入って来た。顔をしかめてふてくされているようだ。
「兄上、早く寝なきゃ。兄上はただでさえねぼすけなんだから」
「それはこっちのセリフだ。ルイス、早く寝ないと身長伸びないぞ?」
「兄上はいつも僕の身長を引き合いに出す。ズルいよ」
「仕方ないだろ?口で俺はルイスにかなわないだからな」
マティアスはルイスの形の良い頭を撫でた。
「うん。少しだけ身長が伸びたようだな。この調子でどんどん伸びろよ」
「・・・。なんで、いつも戦争に行く時は、もう会えないみたいな事言うんだよ!」
「そんな事はない。だが、心づもりをしておかなければいけないからな。俺が帰って来ない時、リカオンもヴィヴィも帰って来ない時。その時はルイスは一人で国を守るのだぞ?」
「・・・。わかってるよ、そんな事」
「本当の事を言うと、いつもお前を一人にするのが心配だ」
「大丈夫。エドワードおじさまが僕に魔法騎士を二人つけてくれてるから」