第8話(1)住に関して
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「……こちらになります」
「どうもありがとうございます」
アヤカが男性に対して礼をする。
「……なかなか悪くないのではありんすか?」
案内された建物の中を見回しながらエリーが呟く。
「……」
「……なんでありんすか? こちらをジッと見て……」
「……貴様、何故ここにいる?」
「ここにいてはなにかマズいのでありんすか?」
「マズくはないが……」
「それならいいではありんせんか」
「かといって良くもないな」
「何故?」
エリーが両手を広げながら首を傾げる。
「貴様を呼んだ覚えはないからだ」
「呼ばれなかったら来ては駄目だと言うのでありんすか?」
「ああ、そうだ」
アヤカが頷く。エリーが苦笑しながら首を左右に振る。
「随分とまあ、勝手な言い分を……」
「勝手な振る舞いをしている奴に言われたくない」
「それはこっちの台詞でありんす」
「なに?」
「勝手な振る舞いをしているのはそちらでございんしょう」
「……なにが勝手な振る舞いだ」
「ふん……」
アヤカが鋭い目つきでエリーを睨む。エリーも負けじと睨み返す。
「え、えっと……」
「……ここにしようと思います」
「あ、ああ、そうでございますか……」
アヤカが穏やかな顔つきに戻って男性に伝える。
「気になる点があれば、後でまとめてお伺いしますので……」
「わ、分かりました。事務所に居りますので……ごゆっくりご覧になってください」
男性が建物からそそくさと出ていく。エリーが不満気に口を開く。
「……またまた勝手なことを」
「貴様も良いと言っただろう」
「悪くないと言ったのでありんす」
「同じことだろう」
「全然違うでございんしょう?」
エリーの言葉に対し、アヤカがため息交じりに応える。
「……拠点となる居住施設選びに関しては、拙者がキョウ殿から一任されている」
「それは不公平というものでありんす」
エリーが唇をぷいっと尖らせる。アヤカが頭を軽く抑えながら話を続ける。
「公平、不公平などという話ではない。ここら辺一帯は我が国の軍の保養施設だ。軍に対して顔が利く拙者が話を最も円滑に進められることが出来る」
「ふむ……」
「納得したか?」
「それには納得がいきますが、キョウ様のお考えに今ひとつ納得出来んせん……」
「なにがだ?」
「キョウ様は自由に生きるというのでありんしょう? なにもわざわざこんな辺境の国に拠点を設けなくても……」
「辺境の国で悪かったな……」
エリーの発言にアヤカがムッとする。
「まあ、例えば、老後を過ごすには良いかもしれんせんが……」
「財宝を見つけ、金はそれなりにある。本来ならば、軍の関係者しか利用することが出来ない施設を買い取って自由に使えるんだ。悪い話ではない……」
「しかし……まさかキョウ様はずっとこの国に滞在をするつもりで?」
「それは無いと思うが……根無し草というのもな。帰る場所があるというのは重要だ」
「う~ん……」
エリーが腕を組んで考え込む。アヤカが呆れ気味に問う。
「まだ納得がいかないのか?」
「いや、とりあえず良しとしんしょう……」
「はっ、上から目線だな」
エリーの物言いにアヤカが思わず苦笑する。エリーが建物の外を見る。
「他の建物から離れているのは良いでありんすな。庭が広いのも良い……あの子たちを遊ばせるには格好のスペースでありんす……」
「あ、あの子たちだと? ま、まさか、そこまで……?」
「? モンスターでありんすが?」
「あ、ああ……」
「……何を想像したでありんすか?」
「べ、別に、なんでもない!」
「……改修なども自由にして良いでありんすね?」
「買い取ればな。ただ、金は無尽蔵にあるわけではないぞ?」
「財宝で十分まかなえるでありんしょう……」
「……なにを造るつもりだ?」
「……お風呂を」
「風呂? 浴室はあるぞ?」
「そうではなくて、露天の」
「ろ、露天?」
「……混浴の」
「こ、混浴⁉ き、貴様、何を企んでいる⁉」
「さあ? なんでありんしょうねえ……」
戸惑うアヤカの様子を見ながら、エリーが妖艶な笑みを浮かべる。