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第2話(3)橙髪の武道家

「さすがは『七色の美声』、女の子を演じても違和感が無いっぺ……」

「感心している場合じゃないわよ!」

「ええっ⁉」

「な、なんで『赤髪の勇者』の絵を寄越さないのよ⁉」

「き、緊急事態で慌てていたっぺ……」

「お、お約束なことを!」

「え?」

「こっちの話よ!」

「女に変わった……どういうスキルだ?」

「お姉様、さっさとやっちゃって!」

「それもそうだ……な!」

「!」

 ローラが右手と左手を掲げる。右手からは強烈な風が吹き出し、左手からは猛烈な炎が噴き出して、俺の体を狙ってきた。デボラが興奮気味に声を上げる。

「強力な風魔法と炎魔法の同時使用! 本来ならば片方だけでも相当魔力を消耗するのにも関わらず、併用を苦にしないのは、お姉様のスキル、【魔力量倍加】の成せる業!」

「ふん……」

「見事ですわ、お姉様!」

「これくらい造作もない……」

「ふん、あの英雄気取りめ、跡形もなく……⁉」

「なっ⁉」

「どうかした?」

 激しい熱風が去った後、平気な顔で立っている俺の姿を見て、ローラとデボラは姉妹揃って驚いた顔を浮かべる。

「そ、そんな馬鹿な……」

「無傷だと……? 一体どんなスキルを使った?」

 ローラの問いに俺は右拳を胸元に上げて一言呟く。

「……ぶっ飛ばした」

「そ、そんなことが出来てたまるか⁉」

「出来たんだからしょうがないでしょうが……」

「むう……」

「じゃあ、こっちの番ね……」

「! 反撃する気よ!」

「そうはさせん!」

 ローラが右手を掲げる。強烈な風が吹きつけてくる。だが……。

「関係ないわ!」

「⁉」

 俺は一瞬でローラとの距離を詰める。

「おらあっ!」

「‼」

 俺の放った拳がローラの左頬を捉え、ローラは真横に勢いよく吹っ飛ぶ。俺は右手をひらひらとさせながら呟く。

「綺麗なお顔をはたいてごめんなさいね……」

「くっ!」

 ローラが立ち上がり、今度は左手を掲げる。

「意外とタフね!」

「むっ!」

 俺はまたもローラの懐に入り、今度は右頬を殴る。吹っ飛んだローラはゆっくりと立ち上がって、頬を抑えながらこちらを睨み付けてくる。

「に、二度目だと……?」

「親にもぶたれたことなかった?」

 俺はわざとらしく首を傾げる。デボラが信じられないという様子で呟く。

「ど、どういうことなの……?」

「この世界の伝説に残る『橙髪の武道家』は、魔法がからっきしだったそうだっぺ……」

「え?」

 いつの間にか俺の肩から離れ、距離を取っていたティッペが説明を始め、それにデボラが反応する。

「その代わりに彼女は“謙虚”な姿勢でもって、己の格闘術を徹底的に磨き上げたそうだっぺ。その結果として……」

「け、結果……?」

「強力な魔法を打ち消してしまうほどの拳を手に入れたっぺ……」

「……だそうよ」

 俺は右拳で左の掌をバシッと叩く。デボラが声を上げる。

「あ、あり得ないわ!」

「あり得るんだからしょうがないでしょう……」

「伝え聞くところでは、スキル【打撃無双】を有していたとかいないとか……」

「ふっ、無双なんて……まだまだよ」

「おおっ、勝気な反面、謙虚な所もちゃんと持ち合わせていたという武道家をしっかりと演じているっぺ……」

 俺の言葉にティッペが感心する。ローラが体勢を崩し、膝をつきそうになり、舌打ちする。

「ちっ……」

「これで終わらせてあげるわ!」

「ぐっ!」

 俺がローラに殴りかかる。

「お姉様!」

「なっ⁉」

 俺の放った拳が弾かれる。ティッペが声を上げる。

「妹の方だっぺ!」

「なんですって⁉」

 俺が視線を向けると、ローラの背後に回っていたデボラが両手を掲げている。デボラは苦しそうにしながら呟く。

「わ、わたくしは支援・補助魔法を極めておりますの……分厚い障壁を張りました、これであなたはお姉様とわたくしに指一本触れることは出来ません」

「傲慢なだけはあるってことね……」

「そういうことだ……!」

「むっ⁉」

 体勢を立て直したローラが両手を掲げる。凄まじい爆風と爆炎が俺に向かって飛んできた。回避行動などを取ることが出来なかった俺は吹き飛ばされる。

「スグル!」

「ぐっ……」

「ははっ、決まったわね、お姉様の爆発魔法が!」

「久々に使った……」

「あらためて……見事ですわ、お姉様!」

「くう……」

「なっ⁉ まだ動けるというの⁉」

 ゆっくり立ち上がった俺を見てデボラが驚く。俺は姉妹を見て構える。

「……」

「お、お姉様! 今度こそとどめを!」

「い、言われなくても……!」

「! ……?」

 ローラから爆風が飛んでこない。ティッペが叫ぶ。

「爆発魔法は消耗が激しい! 短時間で連発は出来ないっぺ!」

「そ、それは朗報だわ……」

「今が好機だっぺ!」

「し、しかし、あの分厚い障壁をどうしたものかしらね……」

「そ、それがしにお任せを!」

「えっ⁉」

 橙々木さんが飛び出してきた。

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