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聖戦

勇者が聖剣で堕天使を斬ったのが戦いの合図だった。
光の神の力である光の刃で斬られた堕天使は完全に消滅した。
「さすが、勇者。お見事」
俺はパチパチと手を叩き、堕天使たちはざわついた、まさか、自分たちを瞬殺することができる光の神の力が魔界にあるとは思っていなかったようである。
ざわざわと翼を広げて、魔王城を威嚇するように飛び回る。
光の神の力があるとはいっても聖剣は勇者の一本だけだ。
俺も邪神様の鎧と魔剣にすぐ換装した。
光の刃のように奇麗に消滅させられないが、魔剣で斬れない相手ではなかった。
束ねれば、天上の神々を脅かせるのなら、その頂点の魔王は十分強いということになる。最初、数の多い堕天使たちは余裕の顔をしていたが、次々と放たれる光の刃や、魔剣に切り刻まれる堕天使が増えると、その美しい顔を悪魔のように歪ませて必死に襲ってきた。
吸血姫も、初めて堕天使と対峙した。魔王の血を飲んだせいか、最初足手まといになることはなかったが、こちらは三人で、堕天使の数が圧倒的に多く、だんだん押され、俺は城内に逃げ込み、逃げ回りながら、時々反撃する戦法に変えた、建物内という狭さで堕天使の翼の動きを封じ、戦い続けた。
どうすればいい、このまま数で押され続ければやられる。勇者たちとはぐれて逆転の策をあれこれ考えるが、何もうかばない。
「おい、魔王、出て来い。出てこないとこいつを引き裂く」
堕天使たちが、吸血姫の腕や、足をそれぞれつかみながら、魔王城の上に吊り上げていた。吸血姫も善戦したが、数に押されて捕まったようだ。堕天使たちが一斉に引っ張れば、吸血姫の手足が裂けるということらしい。
「チッ」
俺は両手を上げて魔王城の外に出た。
「バカね、こういう時こそ、神頼みしなさい」
「え?」
俺の着ている邪神様の鎧からふらりと、黒い影が抜け出した。それは、妖艶な黒い甲冑の女性に変わり、バッと飛び跳ねて空中で吸血姫を掴んでいる堕天使を切り裂いた。支えを失った吸血姫を受け止め、そっと地上に下す。
「邪神様・・・」
その顔立ちは人間界で観た邪神像そのままだった。吸血姫の救出の隙をうかがっていた勇者が吸血姫に駆け寄り、大きな傷がないかと確かめる。
俺と目が合うと、勇者は大丈夫という感じでうなずいた。
「さて、私の手助けはこれぐらいでいいかな」
空の一角に巨大な影が見えたと思った瞬間、邪神様のお姿は消えて、神竜が近づいてきた。
「おいおい、貢物を頂戴に来たが、虫けらがうようよいるようじゃのぉ」
神々に嫌われた堕天使の姿を見ると神竜も嫌いなのか鬱陶しい羽虫を追い払うように竜の炎で焼き尽くし始めた。
「おおいっ」
神竜の背中には賢者たちがいた。彼女たちは洞窟から出てきた神竜に出会い、乗せてもらって一緒に魔王城に来ることにしたのだ。すべて偶然だ。たまたま勇者たちが魔界について来て、神竜が洞窟から出てきた。邪神様が神の力でそういう運命を導いたのかもしれないが、とにかく形勢逆転だ。
もう一人の聖剣使いに神竜が加わり、俺と勇者がふたりがかりでやっとへたばらせられた神竜の参戦は本当に心強かった。へたばらせたが、倒せたわけではない。疲れさせただけで、あれは正直勝利のうちには入らない。いいとこ引き分けである。その神話級のバケモノの参戦に、さすがの堕天使の群れも、徐々に遁走を始めた。逃げようとする堕天使に追い打ちで竜が炎を吐き、かなりの数をへらした。あれでは、もう魔界支配など考えぬだろう。
その功労者である、魔界に住み着くことにした神竜に俺は魔界中の珍味美味を捧げた。降臨して助けていただいた邪神様へのお礼には、廃墟になっていたあの邪神様の神殿を邪神像も含め奇麗に建て直した。洞窟から神竜がいなくなったので、人間界と魔界の交流も進み、俺が臣民にした亜人たちの村も大きく発展していった。勇者と俺たちのその後は、それなりに悪くなかった。

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