ヴィヴィアンの帰還
ヴィヴィアンがルイスを下ろすと、マティアスを指差した。ルイスはマティアスが口をモゴモゴさせているのに気づいたようだ。
「あ!兄上何食べてるの?!」
「もがもが、ヴィヴィのお土産、」
「ズルい!僕にも!」
ルイスはマティアスが持っている紙包みを取ろうとする。マティアスはヒョイと紙包みを高くあげる。小さなルイスでは手が届かない。
マティアスは紙包みからドライフルーツを一つ取って、ルイスの口の中に入れてやる。ルイスの顔が笑顔になる。
「兄上、もっと!」
「ルイスは小さいからちょっとでいいの。俺の方が身体が大きんだからな」
「兄上ズルい!僕は育ち盛りだからたくさん食べるの!」
ルイスはマティアスの身体にしがみついて登り出した。あと少しで紙包みに手が届きそうな時、マティアスはルイスを片手で荷物のように抱えるとグルグル回り出した。
「ふはは!どうだルイス!まいったか!」
「兄上のバカー!」
それまでマティアスとルイスのやり取りを、苦虫を噛みつぶしたような顔で見ていたヴィヴィアンがどなった。
「二人ともいいかげんにしなさい!二人で半分こって言ったでしょ?!もうお土産買ってこないわよ!」
「「それはヤダ!」」
ヴィヴィアンの言葉に、マティアスとルイスの声が重なる。
「おい、お前らうるさいぞ。何を騒いでいるんだ」
開け放たれたドアを見ると、顔をしかめたリカオンが立っている。リカオンとヴィヴィアンは怒るとそっくりな顔になる。リカオンは姉に気づいて表情をゆるめた。
「ヴィヴィ、帰っていたのか。ていうかヴィヴィはまだ旅装束をといてもいないじゃないか!お前ら、早く部屋を出ろ!」
マティアスとルイスは、怒ったリカオンと共にヴィヴィアンの部屋を出た。
しばらくして一同はマティアスの自室に集合した。紅茶の準備をしてヴィヴィアンのお土産をお茶うけにする。
お茶を淹れるのはマティアスの役目だ。何度も毒を入れられているので、マティアスはできるだけ自分とルイスが口に入れるものは、自分でこしらえるようにしている。
だが信頼しているヴィヴィアンとリカオンがくれる食べ物は別だ。
ルイスは熱い飲み物が苦手なので、紅茶は飲まずにドライフルーツばかりを食べている。マティアスも負けずに口の中に放り込む。
ヴィヴィアンはテーブルに地図を広げながら、偵察の結果を説明してくれた。
「イグニア軍の本隊とはここで対戦する事になるわね」
「イグニア軍の数は?」
リカオンがすかさずたずねる。敵の人数に関しては、マティアスも質問しようとしたのだが、口の中にドライフルーツが入っていたためモゴモゴするだけだった。
「およそ三百」
「うーん」
リカオンがうめく。ザイン王国軍の兵は五百。だが戦力になる者は二百あまり、それ以外は町人と村人だ。マティアスたちの戦い方は、マティアスとリカオン。それに二百の貴族たちの少数兵力で相手を叩きのめすのだ。
イグニア軍の総戦力が三百ならばマティアスたちは分が悪い。