第50話 ローランドとのランチ
「さて、とりあえず食事にしようか」
「えっ!? それは……」
「はい。こちらからお願いしておきながら、誠にありがとうございます」
テレーズさんの言う通り、ローランドさんが昼食の話をしてきて、条件反射的に断ろうとしてしまった。
けど、流石テレーズさんと言うべきか、私の言葉を遮り、皆で移動する事に。
あ、危なかった。これがこの世界の常識なんだって、さっき理解したつもりだったのになー。
ちなみに、何処かのお店へ食事へ行く訳ではなく、ローランドさんの家に仕えるシェフが腕を振るってくれるらしい。
ただ、男子寮に私を入れる訳にいかないという事で、寮の食堂ではなく、普段お昼ご飯を食べている学校の食堂を借りてくれているらしい。
「……ルーシー様。これは、ローランド様はルーシー様を狙っているという事で間違いないですね」
「……な、何がっ? どうして、そんな話になるのよ」
「……考えてみてください。普通、こういう場合は何処かのお店へ行くものです。どうでも良い相手であれば、相応のお店へ。気になっている相手であれば、奮発して特別なお店へ行くでしょう」
「……今回は学園の寮だけど?」
「……はい。ローランド様が普段食べられているお食事を、ルーシー様へ提供する……つまりローランド様の家に嫁ぐと、こんな食事だとルーシー様へお伝えしようとしているのです。これは、高級料理店なんて比べ物にならない、家への招待に次ぐ対応ですよっ!」
ローランドさんたちの後ろを歩きながら、テレーズさんとヒソヒソと話しているんだけど、本当なの!?
私みたいに、元々週末にシェフが来る事になっていたから、そのまま私の分も一緒に作るって感じの話だと思うんだけど。
テレーズさんが変に考え過ぎだと思いながら、食堂へ。
「ようこそ、ルーシー様。ローランド様よりお話を伺っております。どうぞ、こちらへ」
えーっと、ここって学園の食堂よね?
二人のメイドさんに出迎えられて案内された先には、普通のテーブルがあって、椅子があって、飲み物を売っているコーナーがあって……うん。間違いなく食堂なんだけど、どこの一流レストランなのっ!? って感じにテーブルがセッティングされていた。
テーブルクロスの上に、キラキラ輝く銀の食器が置かれていて、グラスが沢山……いやいや、未成年だから!
何を出す気なのっ!?
「ルーシー様は、こちらへ。お連れ様は、こちらへどうぞ」
「あ、私はお嬢様に仕えるメイドですので、お気遣いなく」
「いえ、本日はルーシー様とお連れ様を、公爵家への客人としてもてなす様に言われておりますので。我々の為にも、お願い致します」
「そ、そう言われると……わ、分かりました」
よ、良かった。
こんな状況で、どうすれば良いのかと混乱しそうだったけど、テレーズさんが同じ席に着いてくれているのは心強い。
それに何より、貴族にとっては常識なのかもしれないけど、今の私はテーブルマナーとか全く分からないからねっ!
フルコースみたいな感じで、沢山フォークやナイフが並んでいるけど、とりあえず両端から使っていけば良いんだよね?
そんな事を必死で考えていると、メイドさんの一人が近くへ来て、グラスに飲み物を注いでくれた。
「アペリティフはノンアルコールですので、ご安心ください」
アペリティフ! ……が既に何か分からないんだけど!
ノンアルコールって言っていたから、食前酒って事?
テレーズさん! 助けてテレーズさぁーんっ!