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第十六話 ダンザvsザイロス

 ザイロスは聖剣を鞘から引き抜く。
 俺は『神竜眼』でザイロスの持つ聖剣を観察する。
 白銀の刃に黄金の刃紋が入っている。その存在感、迫力、まさに聖剣の名に恥じないものだ。
 耐性は炎・雷・風・光、弱点は水と闇。神竜と同じか。

 神竜の鱗は俺の全力の一撃でも斬れるかどうかわからない。なんせ相性が悪い。なぜなら神竜の鱗は『神竜刀』で引き出せるすべての属性攻撃に耐性を持つのだから。

 だがあの剣は別。あの剣には()()()がある。

 かなり腕の良い鍛冶屋に作ってもらったんだろうが、神竜の鱗を完璧に加工するなんて世界トップクラスの鍛冶屋じゃないと無理だ。恐らくバラバラに砕いた鱗の破片を粘着力のある鉱物で無理くりくっつけている。その鉱物も神竜の鱗の影響を受け、四属性の耐性を持つが、耐性の度合いは神竜の鱗に比べ低い。繋ぎ目の部分なら多少なりとも属性攻撃が通る。

 あの繋ぎ目を的確に斬ることができれば、聖剣を破壊できる。

 ただ繋ぎ目は細く、この『神竜眼』で無ければ見えないほど上手くカモフラージュされている。常人の眼じゃ繋ぎ目なんてまったく見えないだろう。光の加減一つで見失うほど見づらい。
 あれを上手く斬るのは至難の技だな。やってみせるけどさ。

「なに、ボーっとしてやがる!!」

 ザイロスは剣を持つ手の逆、左手に、()()炎を纏う。

蒼炎(そうえん)……)

 ザイロスのユニークスキル『蒼炎(ランクA)』。
 普通の赤い炎に比べ、火力の高い蒼い炎を自在に出すことができるスキルだ。蒼い炎の強みは火力もそうだがその変幻自在の特性。針のように小さくして飛ばすこともできれば、鳥のような姿にして飛ばすことも可能。
 ザイロスは蒼炎を四匹の鷹の形にして放つ。

「トカゲの丸焼きだ!」

 俺は蒼炎を全て――右手で軽く払った。

「は……?」

 ザイロスは目をパチパチさせた後、また左手に蒼炎を纏った。

「なんだ? 直前で間違えて消しちまったのか? 運の良い奴め!!」

 ザイロスはまた蒼炎を放つ。もう俺は避けず、顔面に受けた。蒼炎は俺の鱗に弾かれる。

「え? は? え?」

 呆けるザイロスに対し、俺はため息をつく。

「そんな小火(ぼや)で俺を倒せるかよ」
「ぼ、小火だと!? 俺様の蒼炎が……小火だとぉ!!?」
「いいからその玩具でかかってこい」

 ザイロスは歯をギリギリと鳴らし、聖剣に蒼炎を纏った。

「俺様を本気にさせたこと、地獄で後悔しやがれ!!」

 ザイロスは向かってくる。
 間合いが詰まったところで、俺は鞘から刀を引き抜く。
 使うのはもちろん、一撃の威力が最も高い雷属性。

「“雷填・牙絞”」

 一閃。
 聖剣の真ん中から二センチ柄の方。そこを、渾身の一撃で斬る。

 ガキン!!!

「なっ!?」

 聖剣は雷鳴と共に真っ二つに斬られた。ザイロスは口をあんぐりと開ける。俺は左手で鞘を腰紐から抜き、鞘で思い切りザイロスの顔面を打った。

「がふっ!?」

 ザイロスは前歯を口から吐き出し、鼻血をまき散らしながら地面を転がっていった。

「終わりだな」

 ザイロスは折れた聖剣を、信じられないという目で何度も何度も見る。

「ありえない……なんで……なんでぇ!? 聖剣だぞ! 壊れるはずがなぁい!!!」
「どんな凄い武器でも、使い手が雑魚なら真価を発揮できないもんだ」

 もし、あの聖剣を達人が扱ったなら、繋ぎ目を斬るなんて芸当できないだろうな。

「ほら、もう消えろ。目障りだ」

 戦意喪失するザイロスとカリン。

「ザイロス様が敵わない相手がいるなんて……!?」
「なんなんだよ……なんなんだよお前!!?」

 気になるのはムゥだ。
 ムゥだけがこの状況でもにやけていた。

「……保険をかけておいて正解でしたね」
「なに?」

 ムゥは懐からカードを一枚取り出し、掲げる。

「そのカードは……」

 カードにはライラちゃんが描かれていた。

「私のユニークスキル、『札封殺(イート・カード)』。その能力はご存知ですよね?」

 ムゥのユニークスキル『札封殺(イート・カード)』は弱らせた相手をカードに封じ込めるというもの。カードと封じ込めた対象はリンクしており、カードに傷がつくと封じ込めた対象にも傷がつく。
 ライラちゃんは唇から血をこぼし、体の至るところに傷がついている。随分と痛めつけられたようだ。

 ……逆鱗に触れる、とはまさにこのことだな。

「あなたがこの子と食事をしているのを見ました。この子があなたと親しい仲だということはわかっています。動かないでください。動いたらカードを魔法で燃やしますよ」
「は、はは! よくやったぞムゥ!!」

 ザイロスが息を吹き返す。まるで岸にあげられ死に絶える直前に水を得た魚のようにはしゃいでいる。

「跪け! おとなしく宝器を渡してもらおうか! ついでにそうだな、壊れた聖剣の代わりに、テメェのその武器も寄越せ!」
「ふふ、あはは! このトカゲ野郎! これまでの仕返しにあたしが痛めつけてやる!」

 俺は構わず、抜刀の姿勢に入る。すると、ザイロス達は歓喜の表情から一転、顔を青ざめさせた。

「わ、私の話を聞いていなかったのですか!? この子がどうなっても――」
「お前らは二度、越えちゃいけないラインを越えた」

 ムゥの言葉を無視し、俺は語る。

「一度目は1年前、俺を神竜の囮にしたこと。そして二度目は……俺の仲間を傷つけたこと。だから仕返しに……俺も二度、越えちゃいけないラインを越える。お前らに二度、本気の攻撃をする」

 ムゥが杖を振るモーションを取った瞬間、俺は刀を引き抜いた。

「“風填・飛息”」

 抜刀と共に放たれた旋風、風の刃はムゥの右腕に向かう。
 風の刃はカードを持つムゥの右腕を、肩から斬り落とした。

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