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第十五話 俺はダンザだ

 リッチキングの弱点の胸を通過するように、八方向から光属性の斬撃。

 “光填・八爪撃”。

 『神竜刀』は抜刀の一太刀のみ属性を付加する。この一太刀の判定は曖昧で、何度か実験した結果、抜刀してから斬撃の速度が一定の速度以下になるまで属性付与は続くとわかった。
 光以外の抜刀術は最初の一振りだけギリその基準速度を超える。二振り目は基準速度を下回り、属性付与が消える。
 しかし抜刀直後、速度に補正がかかる光の抜刀術に限り、その基準の速度を超えたまま八回振れる。

 つまり、俺はリッチキングの弱点属性である光属性の攻撃を弱点部位である胸に八連続で当てた。

 リッチキングは何も、断末魔も何も言う間もなく、消滅した。
 天井が崩れ、地が崩れ、空間が崩れる。


――迷宮が崩壊する。


 光に包まれたと思ったら、俺は地上に立っていた。
 迷宮に入る前は大きな穴が空いていた草原。だがすでに穴は消えており、以前の草原に戻っていた。目の前には宝器と思われるマントが落ちていた。

「マント……か。特別な魔力を感じるし、宝器だろうけどボロッちぃな」

 別に期待してたわけじゃないけど、ちょっとショック。砂色のボロボロマントだ。

「……さてと、第二幕か」

 後ろに気配を感じ、振り返る。
 そこには大勢が立っていた。
 雪園の白竜(スノードラゴン)の面々とザイロス達だ。

「……貴殿が迷宮を攻略したのか?」

 ハッカが尋ねてくる。こんな寒い土地なのに、その顔には汗が浮かんでいる。

「はい、そうです」
「そうか……」

 ハッカに戦意はなかった。
 ハッカは無防備に俺に背を向ける。戦う気はないというアピールだろう。

「引くぞ」
「へ? マスター! 宝器を奪わないんですか!?」
「挑みたければ挑め。俺は命が惜しいから挑まん」

 ハッカが言い切ると、雪園の白竜(スノードラゴン)の面々は戸惑いつつもハッカについていき、場を離れていった。
 一方、ザイロスは……。

「やーやー! よくやった! どんな手品を使ったか知らんが、よくぞこの短時間で宝器を手に入れた。褒めてやろう」

 ザイロスは手を差し出してくる。

「その宝器を寄越せ。そうすれば北の(ノース)傭兵団(マーセナリーズ)のギルドマスターの名のもとに、ギルドでの立場を保証しよう」

 俺は鼻で笑い飛ばす。

「生憎だが、お前はもうギルドマスターでいられないよ」
「なに?」
「それどころか、もうお前はどこのギルドにも雇ってもらえない。俺はこの宝器をラスベルシア家に渡し、守護騎士になる代わりにラスベルシアの名を使って告発状をギルド総会に送る。お前が今までしてきた悪行の数々を、全て報告する」
「はぁ!? なに言ってんだお前!! お前は新参者……俺のこと何も知らないだろ!!!」

 俺は覚悟を決める。
 ダンザとして、ザイロスと向き合う覚悟を決める。

「ダンザ=クローニン。それが俺の本名だ」
「だん……? 誰だ?」

 マジかコイツ。
 自分が殺した相手のこと、自分が組んだ相手の名を、覚えてないのか……!

「嘘だろ……!? アンタがダンザ!? ば、馬鹿なこと言うんじゃないよ!!」
「い、いえ……しかし、確かに声が似ています……! あの武器も、彼が持っていた物に似ている……」
「だから誰だよダンザって!! テメェらの知り合いか?」
「ザイロス様、ほらアイツだよ。あの荷物持ちのオッサン! あたしたちが神竜の囮に使った奴!」

 そこまで説明してようやく、ザイロスは俺のことを思い出したようだ。

「――――あーっ!? あの使えねぇジジィか。嘘つけ馬鹿! あのジジィは人間。お前のような爬虫類じゃなかったぜ。ま! 爬虫類以下の能力しかなかったけどな」

 どうやらこの馬鹿には俺がダンザだという証拠をつきつけてやらないとダメらしい。

「……力450、耐久321、敏捷344、運55、生命力488、魔力221」
「は?」
「一年前のお前のステータスだ。よく自慢げに万識の腕時計(ワイズウォッチ)を見せてくれたよな? あと、そうだな……お前がギルド法で禁じられている奴隷売買にも手を出していることも知っている。どうだ? お前の近くにいた人間じゃないと知りえない情報のはずだ」
「で、でたらめ言いやがって……!」

 次に俺はカリンを見る。

「カリン。お前がザイロス以外の男と寝ていること、知っているぜ。あの武器屋の亭主とはまだ仲良くやってるのか?」
「はぁ!? な、なにを勝手なことを……!」
「それとお前にはよく地下でボコボコにされたなぁ。ムゥの回復魔法で延々と回復させられて、延々と殴られて……あの恨みは一時も忘れなかったよ」
「あ、アンタ……本当に、ダンザ、なの!?」

 次にムゥを見る。

「ムゥ。お前はいつもザイロスやカリンとは違うって面してるが、お前も同類だよ。知ってるんだぜ。魔物を生け捕りにして、毎晩嬲って興奮してるの。古井戸の中に拷問部屋作ってなぁ」
「……っ!」
「可愛い顔して拷問趣味、最低のサディスト。それがお前の本性だ」

 ムゥは反論せず、俺をただ睨みつける。

「昔はお前らの報復が怖くて、誰にもお前らの悪行を訴えることができなかった。だが今は違う。お前らの悪行は全てギルド総会に報告させてもらう。テメェらの居場所はもうねぇよ」

 ザイロスは背に掛けた聖剣を握る。

「馬鹿が。どれもこれもラスベルシアの名が無ければ無効だ。握り潰せる。ここでテメェを倒せば全部、俺の物だ……! 聖剣バルファロス、テメェを生贄に作ったこの剣で、引導を渡してやる!!」
「ちょうどよかったよザイロス。その聖剣、目障りだったんだ。俺を囮にして手に入れたその剣で……お前が調子に乗ってるのは心底うざったらしかった。大人げない話だけどな」

 ザイロスの力の象徴、プライドの権化、それがあの聖剣バルファロスだ。

――ぶった斬ってやる……!!

「来いよザイロス。一年前の借り、返させてもらうっ!!」
「やってみろクソ爬虫類がよっ!!!」

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