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第十話 Aランクパーティの狙い

 カリンとの戦闘の後、本部を出て街道を歩いていると、

「待ってください!」

 ライラちゃんに呼び止められた。

「すみません。あの……もしかしてなんですが……」

 ライラちゃんは涙ぐんだ顔で、

「ダンザさん、ダンザ=クローニンさんじゃありませんか……?」
「!?」

 驚いた。心底驚いた。
 彼女は確かに確信を持って聞いてきている。

「……凄いなライラちゃんは。こんな姿になってもわかるんだ」
「や、やっぱり! よ、よかったあ」

 ライラちゃんは両目から涙を流す。俺も泣きそうになった。
 俺が生還したことで、まさか泣いてくれる人がいるだなんて思わなかった。

「心配しましたよ……本当に……ギンマスターも、ダンザさんが神竜に喰われたと聞いた時は泣きながらお酒を飲んでました」
「マスターはともかく、ライラちゃんが泣いてくれるとは思わなかったよ。こんなヘボ冒険者の帰還如きでさ」
「ダンザさんは私がこのギルドに入った時、受付のやり方とか親切に教えてくださったじゃないですか。それからも困ったことがあれば相談に乗ってくれて……ダンザさんは私にとって、第二のお父さんみたいなものでしたから」

 そういや俺、昔は受付の仕事もしてたからライラちゃんの教育係任されたんだっけ。

「でも、どうしてそのようなお姿に……」
「神竜を食べたらこうなった」
「神竜を、食べたぁ!? どどど、どういうことですか!?」
「はっはっは! 後で詳しく話すよ」

 俺は指を自分の口元に当てる。

「とりあえず、俺がダンザってこと黙っておいてくれるかな? 人間から竜人になったなんてザイロスに知られたら余計に馬鹿にされそうで癪に障るからね」
「わかりました。というか、言ったとしてもみんな信じませんよ」
「かもね。そうだ、ギンさんの墓、どこにあるか案内してもらっていいかな?」
「もちろんです! 一緒にお墓参りしましょう!」

 俺はライラちゃんの案内に従い、ギンさんの墓に手を合わせに行った。



 ---ザイロスパーティ視点---



 ザイロス邸。
 ザイロスは貴族顔負けの豪邸に住んでいる。その豪邸の一室で、玉座のような豪奢な椅子にザイロスは座っていた。そのザイロスの膝に、カリンが子供のように泣きついている。

「ザイロス様ぁ~。あのトカゲ……あたしのお腹思いっきり殴ったぁ! 痛かったぁ! 仕返ししてぇ!!」

 ザイロスはカリンの頭をそっと撫でる。

「わかったわかった。今抱えている大仕事が片付いたらな」
「大仕事ってなぁに!? あたしの復讐より大事なことがあるのぉ!?」

 ザイロスの側に控えているムゥが呆れ気味に、

「忘れたのですかカリンさん。ラスベルシア家のご令嬢の一件ですよ」
「ひっどーいザイロス様! 私よりあんな小娘を優先するんだぁ!!」
「我儘言うな。この大仕事をモノにできたらお前に好きなだけ宝石を買ってやるからよ」
「ホント!? じゃあ待つ!」

 ムゥはカリンのガキ臭い様相にため息をつく。

「それにしても貴族の考えることはわかりませんね。まさかこんな荒くれ者の街から守護騎士(しゅごきし)を選出するとは」
「いいじゃねぇか。ラッキーだぜ。これで俺が守護騎士に選ばれればラスベルシアの財産と、あの小娘を一度に手に入れられる。三年間も付き添いで聖堂院(せいどういん)に通わないとならないのは厄介だがな。まぁメスガキども喰ってりゃ、あっという間に三年は過ぎるだろう」
「守護騎士の条件は、この街で一番強い者……でしたね」
「ああ」

 ザイロスは椅子に立てかけた剣を撫でる。

「俺様と、この聖剣バルファロスの前に敵はいねぇ」
「神竜の鱗で作った剣……1年前、苦労した甲斐がありましたね」

 カリンは「ふふふ」と笑い、

「そういやあん時、荷物持ちのオッサン、神竜に喰われちゃったんだよねぇ。あの喰われる時の顔ときたら……」

 ザイロスとカリンは声を重ねて笑う。

「あんなオッサンの命一つでこんなすげぇモン手に入ったんだ。最高のコスパだぜ」

 ザイロスは自信満々の顔で宣言する。

「最強は俺だ。守護騎士には俺がなる」

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